
私たちの研究グループは、文部科学省の脳科学研究戦略推進プログラムや、科学研究費基盤研究A等の競争的資金を受けて、皮質脳波(Electrocorticogram: ECoG)法と呼ばれる脳計測法と解析技術を進化させ、脳の高次機能の研究に取り組んできました。 過去半世紀、この分野の研究をリードしてきたのは、行動課題を行っている実験動物の脳に金属微小電極を刺入して、神経回路の素子である個々のニューロンの活動を調べるやり方です。このアプローチは、脳の特定の部位の機能を解明するのに極めて有用で、大きな成果をあげてきましたが、広い範囲におよぶ脳のネットワークとしての性質を調べることは容易ではありません。
そこで、広域の神経回路の信号伝搬・情報処理のダイナミクスを高い時間分解能で調べるための手法として、わたしたちはECoG法に着目しました。ECoG法は、柔軟な電極で脳の表面から直接電気記録や刺激を行う、脳外科の臨床由来の手法です。これを拡張して、わたしたちは、電極の隙間に大きく穴を開け、脳の曲面に「網をかける」ように張りめぐらせる、メッシュ状のECoG電極を開発しました(特願2009-178454; 特願2011-030678; 特願2012-240965)。このメッシュECoG法を軸として、マカクザルやラットの動物モデルを中心に実験研究を進めるとともに、ヒトを対象とした臨床研究もおこなってきました。
まず、メッシュECoG電極によって得られる信号の記録特性を、微小電極法との比較において検証する系を開発しました(Toda et al Neuroimage 2011)。次にメッシュECoGを実験動物の脳の広範囲の脳表へ留置するための手術法を開発しました(Matsuo, Kawasaki et al Front Syst Neurosci 2011)。さらに、ヒトやサルなどの霊長類において、物体視の高次中枢である下側頭葉からECoG記録をおこない、視覚像のカテゴリーに選択的な神経活動を調べています(Matsuo et al Cereb Cortex 2015; Majima et al Neuroimage 2014; Matsuo et al Neurosurgery 2013; Miyakawa et al in preparation)。特に、西新潟中央病院、東京大学、ATR脳情報研究所との共同研究で行った、ヒトを対象とする研究では、顔の認知と文字列の認知に関わる脳部位が交互に並んでいることを発見しました。これは、一つの視覚カテゴリーはひと続きの脳部位に表現される、という従来の定説を覆す発見で、科学新聞にも掲載されました。将来的に顔や文字のイメージに関する脳情報を解読して意思表示が苦手な人のコミュニケーションを支援する、新しい脳と機械のインターフェイス(ブレイン・マシン・インターフェイス)を構築するための重要な足がかりが得られたと考えています。

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