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新潟大学超域朱鷺プロジェクトがめざすもの

山岸哲(特任教授・山階鳥類研究所名誉所長)

プロジェクトの目的

私たちは大気・水、食料などの生命基盤、地域の風土・文化、そして安全な暮らしを自然の恩恵、すなわち生態系サービスに依存しています。生態系サービスは、生態系の構造と機能をつかさどる生物多様性に支えられています。しかし、人間活動は生物を絶滅させ、生物多様性を低下させてきました。そのため、持続可能な社会、生活を維持していくためには、生物多様性の保全を核とした、劣化した生態系の構造と機能を復元、回復する自然再生が必要不可欠です。
本学は、野生絶滅したトキの野生復帰という世界的に注目されている自然再生の現場に立地する地元大学として、将来的に自然再生を支援していくことが社会から強く期待されていると自負しています。このことを踏まえ、野生絶滅したトキの復元を自然再生のシンボルとして共有できる中国、韓国、および極東ロシアの東アジア地域の大学・研究機関、そして山階鳥類研究所と連携、協働しながら、自然再生学の中核となる国際的研究拠点を創成します。そこではトキの復元を成功させるとともに、それをケーススタディとした自然再生プロトコルである“佐渡モデル”を世界に発信します。

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そして本プロジェクトは、実践的研究活動を通し、自然科学を横断し、人文・社会科学とも融合した学際的環境科学の新しいパラダイムである自然再生学を構築します。自然再生学では、遺伝子、種、個体群、群集、生態系、景観の各レベルを対象とした理・工・農学の基礎知識と技術に、合意形成など地域社会が自然再生を受け入れるための手続きなども含む知識、技術を体系化します。

プロジェクトの概要

昨年9月に実施されたトキの試験放鳥により、生物多様性の保全、そのための里地里山の再生、循環型地域社会の構築をキーワードとして進められてきたトキの野生復帰は、地道で息の長い取り組みに向けて本格的なスタートをきりました。野生絶滅したトキを野生復帰させるということは、トキが生息できる里地里山の半自然生態系の機能を、生物多様性保全の視点から持続的に維持管理し、保障することを意味します。さらに、トキの野生復帰は、20世紀型の効率を追求した社会システムにより崩壊した里地・里山生態系や循環型社会を、科学的知見に基づいて再生する“佐渡モデル”として、半自然生態系、地域社会の再生・活性化ビジョンの作成に大きく貢献します。
このような状況のもと、トキの野生復帰に向けた先行プロジェクトとして、試験放鳥の地理的核となる場所に約100枚の棚田(30ha)を再生整備し、生息環境創出の実験フィールドを造成し、GISデータベース上でトキの好適生息環境予測モデルと餌量推定モデルをもとに自然再生シナリオ案を検討してきました。
自然再生を順応的に実施していくためには、次のような一連の過程を繰り返さなければなりません。まず第1段階として対象となる生物、環境のモニタリング、第2段階としてモニタリング結果もふまえて自然再生を受け入れ、取り組む地域創りのための社会教育・合意形成、そして第3段階として自然再生を支える様々な組織の能力向上の支援(キャパシティービルディング)です。

本プロジェクトでは、先行プロジェクトの実績を研究の基盤とし、上記第1段階から第3段階にそれぞれ対応する多様性モニタリングベース (DMB:Diversity Monitoring Base)、自然再生コンソーシアム(NRC:Nature Restoration Consortium)、および自然再生支援センター(CNR:Centre for Nature Restoration)を設置します。
この3組織を系統的、体系的に活用し、トキ野生復帰のための生息環境創出、再生シナリオ作成の順応的な検証を通した研究を実施します。そして、最先端の知識、技術、例えばDNA、安定同位体を利用した分析技術、アドホックネットワークを利用した生物追尾技術とGISを利用した空間明示技術、さらに合意形成過程を融合した、自然再生に必要なDNAから景観、合意形成までを網羅した自然再生シナリオ(COSMOS: Conservation & Social Model Scenario)の開発を行います。
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