このページの本文へ移動

メダカを用いた脊椎動物の性決定・性分化機構に関する研究

理学部自然環境科学科  酒泉 満

ヒトを含む哺乳類の性は性染色体の組み合わせで決まり、XXが雌、XYが雄になる。これは、Y染色体上の遺伝子SRYがXY個体の性を雄に導き、SRYを持たないXX個体は雌になるからである。メダカの性も性染色体によって決まり、雌がXX、雄がXYであることは古くから知られていた。それは、雄が橙色(XrYR)で雌が白色(XrXr)のメダカ系統(通称「赤白メダカ」、図1)の存在によって理解できる。しかし、メダカの雄と雌の染色体を顕微鏡で詳しく見ても違いは見つからない。つまり、雄も雌も同じ形の染色体を持っていて、24対の染色体のうち、どれがX染色体かY染色体かを特定できない。哺乳類以外の脊椎動物ではどのような仕組みで性が決定されるのかを知りたいという理由で、我々の研究が始まった。
まず、性に連鎖するDNA配列を利用してメダカの性染色体を特定した(図2)。さらに、性染色体上の性決定領域を詳しく調べた結果、ある遺伝子にたどり着いた。この遺伝子の最大の特徴は、ショウジョウバエのdoublesexとセンチュウのmab-3という性決定の中核となる遺伝子と共通のDNA結合配列を持つことであった。さらに、性分化時期の生殖巣の体細胞で発現することも確認できた。そこで、この遺伝子はメダカの性決定遺伝子に違いないと判断し、DMY(DM-domain gene on the Y chromosome)と命名したわけである。
次に、このDMYが本当にメダカの性決定遺伝子であることを証明するために、二つの研究を行った。一つは野生メダカから見つけた突然変異個体の分析である。DMYを持っていても雌になる変異個体のDMYを解析すると、第3エクソンに1塩基の挿入や欠失があり、フレームシフト型の突然変異を起こしていることが予測された。この結果、メダカの正常発生においてDMYは雄への分化に必要であると結論できた(Matsuda et al., Nature 2002)。もう一つは遺伝子導入実験である。赤白メダカ系統の卵にDMYを導入したところ、本来雌になる白色(XX)個体を雄に性転換させることができ(図1)「DMYはXX個体を雄に導くのに必要かつ十分な遺伝子である、つまり性決定遺伝子である」と証明できたわけである(Matsuda et al., PNAS, 2007)。

medaka01

図1:赤白メダカ系統の雌(上、白色)と雄(中、橙色)。下はDMY遺伝子の導入によって雄に性転換したXX個体(白色)。

medaka02
図2:左;メダカの細胞分裂中期の染色体像(2n=48)。白い矢尻が性染色体。右;性染色体の拡大図。SL1(黄色)、SL2(ピンク)は性連鎖DNA、SDは性決定領域を示す。白い矢尻は動原体。