森林は“大きな炭素貯蔵庫”

新潟大学教員によるコラム“知見と生活のあいだ“

教員コラム(六花) 2021.11.25
梶本卓也 佐渡自然共生科学センター 教授

日本は国土の7割近くが森林で覆われる森林大国です。これほど森林率が高い先進国は、ほかには北欧のフィンランドやスウェーデンくらいで、私たちは当たり前のように森を目にしながら生活しています。その分、森林が持つ大切な機能やその恩恵をあまり意識せずに過ごしているようです。例えば、木材や山菜・キノコなどを生産するのをはじめ、山の水を浄化し土砂災害を抑止したり、多くの動物に棲みかや食料を提供するなど、森林にはじつに多くのいわゆる公益的機能があります。なかでも、樹木が光合成で樹体(幹や根)に炭素を貯蔵することは、森林の基本的な機能のひとつです。しかし、このおかげで、地球の二酸化炭素の循環や気候もうまく調節されているのを意識する人はさらに少ないかもしれません。

私の研究テーマのひとつは、こうした森林の炭素固定・貯蔵の仕組みや特徴を調べることです。これまでに国内の森林をはじめ、気候変動の影響が懸念されるシベリアや南米アマゾンなどの森林でも調査をしてきました。世界各地での同様な研究例からは、成長が盛んな若い林だけではなく、成長が衰えてきた老齢な森林でも毎年炭素を少しずつ貯蔵することが明らかにされています。もちろん樹種間の違いや気象条件などで年変動はありますが、森林は大きな”炭素貯蔵庫”として、大気と陸上間の炭素循環においてバッファーのような役割を果たしているのです。つまり、地球上の森林で吸収し固定できる量は、さすがに化石燃料の消費等で毎年大気に放出される二酸化炭素の総量にはおよびませんが、その濃度の急激な上昇を抑制し、温暖化の進行を緩和するのには大いに貢献していると言えます。

さて冒頭で、日本は先進国では珍しい森林大国と書きました。もうひとつ、森林のおよそ半分をスギやヒノキなどの人工林が占める点も大きな特徴です。この人工林の多くは、戦後の木材が不足した際、天然林を伐採して一斉に植栽したもので、今ちょうど伐採する時期を迎えています。伐採後は再び植林して人工林にするのか、あるいはもとの天然林に近い広葉樹の林に戻すのがいいか等、日本の将来の森づくりを決める岐路に立ってています。

この問題は簡単ではないですが、それぞれの森林が持つ機能の違いを生かして、つまり景観や生物多様性で優れた天然林(広葉樹林)と炭素の固定貯蔵能が高い人工林を、やはりバランスよく配置しておくのが良さそうに思えます。さらには、最近は豪雨などで山地災害が頻発するので、天然林、人工林に限らず、今後は災害に強い森(山)づくりを重視する必要があるでしょう。

炭素の固定機能が高いスギ人工林(九州)

プロフィール

梶本卓也

佐渡自然共生科学センター 教授

専門は、森林生態学、造林学。おもに寒冷地域の樹木や森林について、低温や積雪など厳しい環境下における生存戦略や更新機構などを研究。人工林の育成管理技術の研究にも取り組む。

研究者総覧

※記事の内容、プロフィール等は2021年11月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第38号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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