ドラッグデリバリーシステム技術を応用した新たな歯周病治療薬開発を目指して

教員コラム(若手研究者) 2023.05.24
中島麻由佳 大学院医歯学総合研究科(歯) 助教

薬は病気の治療や予防に必要ですが、服薬・投与に関する患者さんの苦痛やトラブルは様々あり、依然として改善が必要な状況です。飲み薬が苦手なのに大きな錠剤を1日3回も飲まなければならない・・・薬の副作用が強くて辛い思いをした、などの経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?また、予防注射に代表されるような疼痛を伴う投与を好む人はほとんどいないでしょう。このような服薬・投与に関する苦痛を取り除き、より簡易・安全でより効果の高い薬剤投与法を実現させる製剤技術がドラッグデリバリーシステム(DDS)です。具体的には、DDSでは薬剤を目的の部位まで運ぶためのドラッグキャリアーに様々な工夫を施します。1mmの10,000,000分の1程の小さなカプセルに薬剤を内包したり、特定の分子や細胞へ特異的に結合するキャリアーを開発したり(インテリジェントドラッグ)、患者さん自身の細胞をもキャリアーとして活用することが可能で、特に近年において画期的な新技術が次々と開発されています。

私の研究は、自身の専門である歯周病を対象として、DDS技術を用いた新たな治療薬や治療方法を開発し、より良い治療を患者さんへ提供することを目標としています。その取組の一つが歯周病の塗り薬の開発研究です。現在の歯周病治療では、疾患の原因であるバイオフィルム(細菌の集合体)を除去するための処置の一つとして、尖った器具を歯周ポケットの中に挿入して操作を行いますが、歯肉からの出血や疼痛を伴います。疼痛の軽減のために歯肉へ局所麻酔を行いますが、注射針の挿入も疼痛を伴います。このような治療に伴う患者さんの苦痛を軽減するために薬を使った治療法、特に扱いの簡易な塗り薬を開発できないか、と考えたのが始まりです。塗り薬の基材として着目したのはイオン液体(IL)というドラッグキャリアーです。ILの組織内への高い浸透性を活用して、歯周ポケット深部に付着するバイオフィルムへ届くと共に、バイオフィルム内への浸透により高い効果を持って破壊・除去することが可能な、歯周病塗布薬(ILジェル)を開発するに至りました。

バイオフィルム除去にとどまらず、現在の歯周病治療の限界をのり越えるための課題はまだ多く残されています。DDS技術の応用を一つの切り口として、今後も患者さんのニーズに応えられるような、より良い医療の提供を目標に、果敢に挑戦を続けたいと思います。

 

イオン液体(IL)(左)とイオン液体を基に開発した歯周病塗布薬(ILジェル)(右)。

ILジェルによるバイオフィルムの破壊。ILジェル投与前(左)と投与後(右)。

プロフィール

中島麻由佳

大学院医歯学総合研究科(歯) 助教

博士(歯学)。専門は歯周病治療学。新潟大学大学院医歯学総合研究科卒業後、日本学術振興会 特別研究員(RPD)・海外特別研究員、ハーバード大学Postdoctoral fellowを経て、2022年4月より新潟大学医歯学系(歯学部)助教。新潟大学若手教員スイングバイ・プログラム採用教員(2期)。

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※記事の内容、プロフィール等は2023年5月時点のものです。

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