地域から世界へ―“脳といのち” “食と健康”で未来を拓く

特集 2026.02.06

新潟大学が2024年度に採択された、文部科学省の
「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」について特集する。同事業では、
新潟大学将来ビジョン2030を発展させ、「未来社会の“脳といのち”と“食と健康”のイノベーションを
創出する研究拠点」を目指した取組を行う。事業の目的や内容を紹介する。

地域の中核を担い国際的な研究力を高める

J-PEAKSは、地域の中核大学や特定分野に強みを持つ大学が特色のある研究力を核に、他大学との効果的な連携を図りつつ、研究活動の国際展開や社会実装を加速することと、国全体の研究力を牽引する研究大学群の形成を目的としている。新潟大学は、2022年度に採択された「地域中核・特色ある研究大学の連携による産学官連携・共同研究の施設整備事業」と併せて、地域社会の課題解決に貢献する地域中核研究大学としての役割を一層強化していく。事業の目的と背景について牛木学長に聞いた。

「国立大学は地域の中核であり、同時に世界に伍する存在を目指すべきです。新潟大学は、規模の大きい国立総合大学で、学生の6割が県外、主に東北や北関東出身であることから、新潟を含む東日本の拠点大学としての役割も持ちます。これまで以上のレベルで輝き続けるためには、まさに『地域中核・特色ある研究大学』という言葉でくくれるように、研究力を高めることが必要で、そのためにはJ-PEAKSの獲得は不可欠であり、命題でした」

牛木学長の写真牛木辰男 学長

“脳といのち” “食と健康” 歴史と実績、地域特性のある領域で輝き続ける未来の大学を目指す

“脳といのち” “食と健康”2つの重点領域

J-PEAKS採択の審査は非常に厳しく、卓越性とイノベーションの掘り起こしが求められる。新潟大学は“脳といのち”と“食と健康”というテーマを柱とした。どちらも歴史と実績、地域特性があり、大学の強みとなる領域だ。

「基礎と臨床医学、生命科学、脳科学などの医歯学系研究は、歴史があり研究力が高く評価されています。古くはツツガムシ病の原因となるリケッチア(病原体)の研究、荻野久作先生の排卵と妊娠についての研究、また現在の脳研究所に至るまでの研究があり、これらの実績をふまえて未来に発展していく研究を“脳といのち”というくくりでまとめました。また、国内における新潟の特色を説明するテーマは、やはり食や農業、健康科学でしょう。こちらは“食と健康”というくくりでまとめました。文理の枠を超えて新潟大学の強みを整理できるテーマだと考えています。新潟大学将来ビジョン2030において、私は『ライフ・イノベーション』という言葉を使いました。そこには医療だけではなく、豊かな人類の営みに貢献する革新という意味を込めました。それをより具体的にしたものが“脳といのち”と“食と健康”です」

こうして描かれた新潟大学の10年後のビジョンが、「未来社会の“脳といのち”と“食と健康”のイノベーションを創出する研究拠点」だ。AI・数理情報、ELSI領域との融合、ひとバイオリソースバンクの強化、国内外の大学との連携活用、および高度専門人材・事務改革による組織マネジメント強化で、地域が頼りにし世界に貢献する研究成果の創出と社会実装を行っていく。

また、国内外の研究機関との相乗的な連携を通して、優れた人材が集まり活躍する場の形成を目指していく。連携大学として中部大学、参画機関として東北大学、大阪大学、量子科学技術研究開発機構、オーフス大学、インド理科大学院大学、ボルドー大学等があげられる。さらに、「地域中核・特色ある研究大学の連携による産学官連携・共同研究の施設整備事業」採択により整備した“脳といのち”のイノベーションハブを活用して進めていく。

重点領域に活用できる新設センターや研究者が集まる拠点の設置準備が着々と進む

重点領域で行う研究センターや拠点の新設

「J-PEAKS事業は、日本に世界トップクラスの研究大学を創出するという構想のもとに設立されています。これまでもいわゆる旧帝大や学術研究懇談会(RU11)という大学群がありましたが、それだけでは不十分であるという国の政策のもと、さらに約30機関を選定し集中投資していく決定がなされました。この採択により、新潟大学は日本全体の研究・イノベーションを向上させる集団の一員として大きく飛躍していくのです」と話すのは川端和重理事・副学長。2つの重点領域ではどのような研究が行われるのか。

川端理事の写真川端和重 理事(総括・社会連携 担当)・副学長

「“脳といのち”領域は、新潟大学が国際的優位性を持つ研究領域で、新たなイノベーションの創出を目指しています。特に、世界トップレベルのひとの脳の病理標本を持つ『ひとブレインバンク』の高度化と活用促進を中核として、脳機能の詳細な解明を進めるとともに、神経疾患の予防・早期診断・革新的治療法の開発へとつなげることを目指します。また、国内トップクラスの実績を誇るヘルス・ライフサイエンス分野の強みを活かし、研究を積極的に応用展開することで医療や福祉など幅広い領域での社会実装を図っていきます」

標本患者さんとの信頼関係の下に提供された脳の病理標本
ブレインバンク約3万点の標本を持つ「ひとブレインバンク」
BIH“脳といのち”のイノベーションハブ(BIH)
 

一方の、“食と健康”領域では、新潟の地域特色と結びついた独自性の高い研究が行われる。

「暑さや乾燥などマルチ耐性のあるコメの開発や水耕栽培におけるメタン削減など、地球温暖化に対応する実証研究を進めます。また、日本酒学センターの海外大学との連携や、産学連携での『おいしさ』の研究など、新潟から世界の地域課題解決に取り組みます。“食と健康”は人類の幸福に不可欠であり、その分析と研究は地域構想を共有するための重要なリソースにもなります」

このほか、医歯学と理工農学分野の連携により、咀嚼・嚥下機能研究、食資源の有効活用や機能性食品の開発など、健康と地域産業の発展に資するイノベーション創出も期待される。

2026年以降、学内にはこれらの重点領域に活用できる「ひと脳研究資源イニシアチブ推進センター」「フード&ヘルスイノベーション共創センター」「コメと環境の国際イノベーション共創センター」「AIビッグデータサイエンス統合研究拠点(仮)」「ELSI 連携センター(仮)」などのセンターや拠点の設置が予定されている。

「センターにあるリソースや設備、ネットワークは、センター所属の研究者だけが使うのではなく、全学的に新しい研究を生むためのもの。私立や単科大学にはない強みと価値を掘り起こし、誰もが使えるような施設環境を作っていきます。また、これらの事業は、学長直轄特区である研究力強化推進本部を中心とした、全学的な推進体制を構築し、さらに4つのR&I(研究とイノベーション)戦略と高度人材活用戦略を積極的に展開していきます」

R&I戦略は、第1に組織化と成果創出のための組織マネジメント強化、第2に成長・未来分野の強化、第3に国内外大学との連携強化、第4に戦略的飛躍プログラムの設置があげられる。研究とイノベーションを両輪として発展・強化していくのが特長だ。

ボルドーサマースクールボルドーサマースクール
栽培ベトナムでのコメの実証栽培
日本酒学センター日本酒学センター
 

UAのはたす役割

新潟大学では、国立大学法人としての経営力強化を推進するために、全国に先駆けて教職員、事務職と独立した第3の職として大学経営のマネジメント人材のUA職(University Administrator)を設置している。UAは学内の研究や外部資金を活用して大学の理念や目標、プロジェクトを企画・推進するエキスパートであり、新しい大学へのプロデューサーで、J-PEAKSにおいても重要な役割を果たす。

特色ある研究領域で産業と社会の双方に影響を与えるイノベーションで地域の未来を作る

地域の誇りとなり社会に求められる大学へ

J-PEAKS事業の根幹は、研究をベースとしたイノベーション創出だ。イノベーションには産業イノベーションと社会イノベーションの2つがあるという。産業イノベーションは新しい製品等の社会実装のための組織的な産学連携、社会イノベーションは魅力的な地域の創生につながる。新潟大学が地域に拠点を置く以上、両方を先導的に推進しなければならないと川端理事・副学長が続ける。

「“脳といのち”領域は、国際的な共同研究や大型の産学連携へ発展し産業イノベーションが期待されます。一方の“食と健康”領域は、社会イノベーションの側面が強くなるでしょう。また、“食と健康”領域の研究が、栄養や機能と結びつき医療につながっていくことも当然の流れとしてあります。いずれもそのイノベーションをどう創出するかということがテーマであり、その成果は、新潟の街が変わると
いうところで見えてくるのだと思います。地域のみなさんにはその成果を誇りにしてほしい。海外の大学では、研究そのものよりも、研究と社会とのつながりが重要視されています。トップクラスの大学群は、様々な対話を通じて、お互いの知恵を共有し、大学経営やJ-PEAKSの活用方法について学び合っています。他の大学でもJ-PEAKSは進められていますが、その大学ならではの特色について国も強く関心を寄せています。この大学が社会の中でどうあるべきか、何を実現すべきかを考える必要があります。私たちは出発点のインフラを整備しているのです」

地域と世界を繋ぐ研究大学として飛躍

新潟大学における“脳といのち” “食と健康”領域の研究推進は、社会にどのような影響を与えていくのか。再び牛木学長に聞いた。

「2つの重点領域を柱に新潟大学の特色を世界に向けて発信するとともに、その特色や研究を社会と繋げるための仕組みを作り、実際の社会で成果を出していくことが重要です。研究のアウトプットとして地域の医療や行政との連携が進めば、派生してその他の成長分野も強化されていくでしょう。このビジョンの実現を通して、新潟大学は日本と世界をつなぐ大学になれるのです」

社会や国内外の大学との連携、UAの活用による組織マネジメントを強化し、地域に根ざしながら世界に貢献する研究大学として、新潟大学は次の10年に向けて成果の創出と社会実装を推進していく。

多様なバックグラウンドや専門性をいかし優位性のある領域強化を推進

経営戦略本部UA室
長谷川佐知子上席UA(J-PEAKS事業リエゾン)

J-PEAKSにおけるリエゾンは、目標達成のために助言・提案を行う日本学術振興会による伴走支援チームと大学の橋渡しを担う存在で、各採択大学に1名配置されています。課題や現場についての情報共有、学内や連携機関との調整を行っています。
その他にもUAはJ-PEAKSで新設されるセンターごとにマネジメントを担う推進室長として配置され、組織編成や事業計画の策定などにあたり、また研究者が研究に専念できるような体制作りをします。新潟大学のUAは多様なバックグラウンドや専門性を持つ集団で、独自の人事制度(UA制度)が全国的に注目されています。優位性のある領域を強化し、新たなセンター·拠点等の活用を促進するため、2026年度以降、全学を対象とした公募の実施や、統合IRを活用したデータ分析とこれまでに蓄積した知見を用いた、有望なテーマの掘り起こしを行います。J-PEAKSは大学の未来を切り拓く挑戦です。執行部や教職員の方々と力を合わせ、ビジョン実現に貢献していきたいと考えています。

長谷川さん

※記事の内容、プロフィール等は2026年1月時点のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第54・55号合併号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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