ウランの超伝導

教員コラム(若手研究者) 2026.04.07
石塚 淳 工学部 助教

“ウラン”と聞くとどんな印象があるでしょうか。放射性物質、原子力、原発、そんなイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。実は最近、ウラン化合物を極低温に冷却したときの面白い性質が、少しずつ明らかになってきています。

ウランを発見したのはドイツの化学者クラプロート(Martin Heinrich Klaproth)で、彼は1789年に黒色の鉱物———閃ウラン鉱(pitchblende) を分析して新しい元素を含むことを示し、当時発見されたばかりの天王星(Uranus)にちなんで、Uraniumと命名しました。ちなみに天王星は、ギリシャ神話の天空の神ウラノスにちなんで名付けられました。

時を経て今から40年ほど前、1983年から1985年にかけて、ウランを含む化合物の“超伝導”が相次いで発見されました。さらに2000年を過ぎてからも新しい物質群が見つかっています。

超伝導とは、物質を低温まで冷やしたときに電気抵抗が完全に失われる現象です。超伝導状態では、物質中の電子が2個ずつ対(クーパー対)を作り、通常はそれぞれのスピンが互いに打ち消し合っています。そのため一般には、磁場はこの電子対を壊しやすく、超伝導を弱める要因として理解されてきました。実用の観点からも、強い磁場のもとで安定に超伝導状態を維持することは重要な課題です。

ウラン化合物の超伝導は、磁場に対して頑丈であるばかりか、物質の強磁性と超伝導が共存することもあります。これは、「磁石になる超伝導」と呼ばれ、これまでの研究者の理解を大きく変える発見でした。

その後、世界中で多くの研究が進められてきましたが、ウラン化合物の超伝導は、いまなお完全には解明されていません。むしろ、調べれば調べるほど、これまでの常識では説明しきれない振る舞いが見つかってきます。そこに、この分野の大きな面白さがあります。

これまでの研究から、ウラン化合物の一部では、電子対のスピンが平行にそろった「スピン三重項超伝導」が実現している可能性が高いことがわかってきました。このような状態では、超伝導になっても電子対のスピンに関する自由度が残ると考えられています。そのため、磁場がかかったときにスピンが磁場の向きに合わせて並びやすくなり、結果として、通常の超伝導よりも高い磁場まで超伝導状態が生き残ると期待されます。超伝導体はこれまでに数多く発見されていますが、スピン三重項超伝導が実現している物質は非常に稀で、なぜかウラン系化合物に数多く見つかっています。

図1超伝導体の電子対(クーパー対)の概念図。
電子はスピン1/2を持っているので、クーパー対は合成スピン0または1を持つ。
スピン一重項超伝導はそれぞれのスピンが互いに打ち消し合って合成スピンが0である。
それに対して合成スピン1を有するクーパー対によるスピン三重項超伝導が注目されている。

さらに近年では、こうしたウラン系超伝導体の中に、「トポロジカル超伝導」と呼ばれる非常に特殊な超伝導状態が現れる可能性にも注目が集まっています。これは、物質の中の電子の運動を“波”として見たときの、波数空間における構造(トポロジー)に深く関係した性質です。専門的な話題ではありますが、この状態は外乱に強い量子情報の担い手を実現できる可能性があり、将来的には量子コンピュータへの応用も期待されています。

図2ウラン系超伝導体UTe2の結晶構造と、電子を“波”として見たときの波数空間の電子分布。

私の研究テーマの一つは、ウラン系化合物の超伝導を統一的に説明することです。なぜこれほどまでに異なる超伝導状態が現れるのか。どのような電子の相互作用がその違いを生み出しているのか。こうした問いに答えることで、超伝導という現象そのものの理解を深めることを目指しています。一見すると、ウラン化合物の研究は日常生活から遠い世界の話に思えるかもしれません。しかし、「従来の理解を超える物質」を調べることは、新しい物理法則の発見につながり、将来の技術の種にもなります。大学で行われている基礎研究の面白さは、まさにこうした部分にあるのだと思います。

プロフィール

石塚 淳

工学部 助教

博士(理学)。専門は固体物性。新潟大学大学院自然科学研究科修了後、京都大学特定研究員、ETH Zurich Postdoctoral fellowを経て、2022年4月より新潟大学自然科学系(工学部)助教。新潟大学若手教員スイングバイ・プログラム採用教員(2期)。

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※記事の内容、プロフィール等は2026年3月時点のものです。

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