日本のスナップ写真史

日本写真史における「スナップ」の系譜をたどりスナップ美学の実態と変遷に迫る

研究(六花) 2022.12.09
甲斐義明 人文学部 准教授

記念写真や広告写真、科学写真など、写真には様々な社会的用途があり、それぞれにルーツや意義が存在する。甲斐義明准教授は、美術的観点から捉えた写真の歴史や文化の変容について、作品や資料をもとに紐解く。

「写真を芸術として確立しようとする動きは19世紀半ばのヨーロッパで始まり、その後アメリカや日本へ浸透していきました。どのような作品がアートとみなされてきたのか、写真家たちがどういった活動をしてきたのかを歴史的背景と照らし合わせながら分析しています。その中で『スナップ』と呼ばれる撮影技法に焦点を当て、日本における芸術写真の位置付けや考え方がどのような展開を遂げているのかを研究しています」

スナップ写真とは一般的に「カジュアルな写真」「簡単に撮った写真」といった意味で使われるが、写真界では「カメラに気付いていない被写体を自然に、率直に撮る写真」という意味を持つ。日本ではこの技法が諸外国と異なる独自の文化を形成しただけでなく、ひとつの美学として写真表現の歴史の中心的な位置を占めてきたと、甲斐准教授は説明する。

「昭和初期から中期にかけて活躍した木村伊兵衛や土門拳といった写真家たちの影響もあり、『スナップこそが最も重要な写真であり、写真美学の王道』という考えが日本の主流でした。当時の作品を精査してみても、演出されていない場面を切り取ろうとしたものが多く、新たなジャンルを開拓したことが読み取れます。ありのままの表情や自然さに最高の価値を見出すという彼らの価値観や感性が受け入れられた結果、『スナップ美学』として確立していったのだと考えられます」

日本写真史をけん引してきたスナップ美学。しかし近年はそのあり方が変遷しつつある。芸術写真は今後どうなっていくのか。

「スマホをはじめ、急速なデジタル化により写真と動画の境界線があいまいになり、加工技術の発展も相まってスナップそのものの定義が揺らぎつつあります。それでも、スナップにはその瞬間をありのままの姿でとらえておきたいという欲求を満たす役割が根底にあり、写真家たちのスナップ美学に対する考えや理念は、形を変えつつ今なお受け継がれています。メディアの多様化が著しい現代において写真がどのような社会的・芸術的意義を持つのか、これからも探究していきたいです」

担当する「表現プロジェクト演習」の授業で履修学生が制作したフォトモンタージュ
主な著作物

プロフィール

甲斐義明

人文学部 准教授

博士(美術史学)。専門は写真史、近現代美術史。日本とアメリカの写真の歴史について研究。著書に『ありのままのイメージ:スナップ美学と日本写真史』など。

研究者総覧

素顔

趣味と研究をかねて様々なタイプのカメラを使用するという甲斐准教授。最近ではアクションカメラ(GoPro)を入手し、既存のカメラでは難しかった色々な撮影方法を試すという。たも網の柄にアクションカメラを取り付けて海中に沈めたところ、このような映像が撮れた。

※記事の内容、プロフィール等は2022年11月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第42号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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