スピンで見る物質中の量子エンタングルメントの世界

磁石の性質が発現するメカニズムをミクロな世界で探る

研究(六花) 2023.03.13
奥西巧一 理学部 准教授

2022年のノーベル物理学賞には、物質を構成する原子や電子、素粒子などのふるまいについて説明する理論「量子力学」の分野で、「量子エンタングルメント(量子もつれ)」という現象が起きることを実証した2人の研究者が選ばれた。量子エンタングルメントは古典力学では説明不能な現象で、複数の粒子が奇妙な絡み合いの状態になることをいう。電子がもつ「スピン」という性質の粒子間における相関関係の解明には、この量子エンタングルメントの理解が鍵を握ると言われている。スピンは、奥西巧一准教授の研究対象である「磁石」の一番小さな単位とも例えられる。

「磁石は私たちの身近にあるもの。しかし、どうしたら磁石になるのか、磁石になるものとならないものにはどういう違いがあるのかには多くの謎が残されています。物理学における重要な課題の一つです」

スピンというミクロな磁石が多数集まると、ミクロな世界からはまったく予想のつかない興味深いふるまいが現れる。磁石としての性質をもつことだ。さらに、一定の高温条件下になると磁石としての力が無くなってしまう。例えば鉄の場合は、約770℃でこの現象が起こる。奥西准教授は、これらの謎に理論的、計算物理的に挑んでいる。

「研究は量子力学や統計力学などの物理学上の様々な理論や、テンソルネットワークと呼ばれる最新のコンピューターシミュレーション法を組み合わせて行います。実験を行う研究者とも連携しながら研究を進めています。複雑に絡み合ったマクロな数のスピン運動を分析し、なぜマクロな磁石が発現するのか、そしてどのような新しい磁石の性質が実現可能なのか、そのメカニズム解明を目指しています」

奥西准教授の研究は、量子計算・情報分野や、ブラックホールなどの宇宙の成り立ちとも関係し、分野を越えた研究につながっていくものだ。

「私の研究は、量子の絡み合いの引き起こす物理現象の解明という、物理学研究の最も基礎的な部分を担っています。あらゆる分野に関係しますし、この世界の成り立ちという、ある意味、哲学的な世界に通じるものもあるかもしれません。すぐに社会に役立つというものではないかもしれませんが、このような基礎研究の蓄積が新しい技術や考え方の創造につながります。自然現象への飽くなき好奇心と知的な挑戦こそが、物理学の醍醐味だと考えています」

ふだん目にする磁石はN極とS極が引き合う棒磁石のイメージですが、それはミクロな世界の磁石の最小単位「スピン」が6×10^23個(アボガドロ数)という途方もない数が集まって発現する不思議な性質です。しかも、そのミクロなスピンは棒磁石とは異なり、量子力学の不思議な法則に従っています。

スピンが沢山集まったときに、どんな性質が生み出されるのでしょう?スピンの織り成す量子の絡み合い(エンタングルメント)を表すテンソルという数学的な道具をネットワーク状に結び付け、それらをコンピューターにより効率的にシミュレーションすることで、問題の本質を理解することを目指しています。

プロフィール

奥西巧一

理学部 准教授

博士(理学)。専門は物性理論。物性物理の分野のうち、主に量子スピン系を対象に研究を行う。

研究者総覧

素顔

「休憩時や思考を切り替える際に手に取る」というルービックキューブ。調子が良いときには1分ほどで6面がすぐに揃う。その揃え方は非常に興味深く、数学的に解析することもできるのだそう。

※記事の内容、プロフィール等は2023年1月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第43号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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