酒粕の健康機能性を見出す
酒粕に含まれる生物活性物質とその効果を解明し 骨の健康を維持する機能性表示食品開発を目指す
酒粕で骨粗しょう症予防ができないか
超高齢社会の日本では、骨粗しょう症患者数が増加の一途をたどっている。
転倒などによる骨折からそのまま寝たきりになってしまう人も少なくない。
柿原嘉人助教は、健康に有用な食品の栄養成分の探索とその効果について研究し、骨粗しょう症予防が期待される新しい機能性表示食品の開発を目指す。
「骨がスカスカになり骨折しやすくなる骨粗しょう症は、高齢者、特に閉経後の女性に多い病気です。健康な骨を保つためには、古い骨を壊す破骨細胞と新しい骨をつくる骨芽細胞の2つの細胞がバランスよく働くことが大切。加齢により破骨細胞が骨芽細胞の活性を上回ることが骨粗しょう症の原因です。いくつかの食品素材を調べる中で、栄養価が高く昔から健康増進や美容に効果があると言われる『酒粕』の可能性に着目し、酒粕に含まれている有用な成分の探索、そして骨代謝や健康維持増進にどのような効果をもたらすのかを調べています」
骨芽細胞石灰化の促進を確認
研究では、粉末状の酒粕から抽出液を作成し、細胞を用いた実験を通して骨芽細胞の活性化作用を明らかにしていく。
「抽出液を細胞に振りかけたところ、骨の形成が促進される石灰化効果が認められました。どの成分が効果をもたらすのかは調査中ですが、酒粕の種類によって活性レベルが異なることからも、1つではなく葉酸をはじめとする複数の成分が合わさって石灰化を促進しているのではと考えています。機能性表示食品の認可を得るには更なる科学的根拠を見出す必要があるため、今後は生体内での活性を評価するフェーズへと移行し、最終的な目標であるヒト臨床試験に向けて成分解析と実証実験の両方に注力していきます」
健康寿命延伸と日本酒の魅力発信に寄与する
また、柿原助教は研究と並行して、具体的な食品の開発やどのように市場展開していくかについても検討している。
その背景には、共同研究を進める民間企業はもちろん、2018年に発足した新潟大学日本酒学センターの存在も大きいと言う。
「酒粕を使った料理には甘酒や粕汁などがあるものの、それ自体を食す文化・習慣には地域差があり、決してポピュラーな食材とは言えません。調理法やサプリメントへの展開も含め、摂取しやすい形を模索しながら商品開発に取り組み、骨粗しょう症予防やQOL向上の実現につなげていきたいです。また、日本酒学センター設立以降、酒蔵の方々と直接話す機会も生まれ、それが研究のヒントや発見になっています。日本酒や酒粕の新たなチカラや魅力を明らかにし発信することで、新しい付加価値を生み出し、酒造業界に貢献できればと思っています」
世界トップクラスの長寿国である日本では、国を挙げて健康寿命の延伸に取り組んでいる。
骨を健康に保つことは豊かな日常生活を送る上で必要不可欠であり、近い将来、酒粕が新たな機能性表示食品になることを期待したい。
プロフィール
柿原嘉人
博士(医学)。専門は薬理学、分子生物学。酒粕をはじめ様々な食品の骨代謝に対する効果を研究する。
素顔
以前からお酒を嗜み、楽しんできた柿原助教。酒粕の研究が進むにつれ、熱を帯びてきたのがカップ酒。バラエティに富んだ目を引くパッケージデザインなど、味以外への興味も尽きない。
※記事の内容、プロフィール等は2023年4月時点のものです。