太陽電池セルの高効率化、モジュールの信頼性向上、屋外実証評価まで一貫研究

太陽電池の生涯発電量最大化に取り組み 脱炭素社会の実現に貢献する

研究(六花) 2023.06.15
増田淳 工学部 教授

エネルギー危機、そして環境問題の観点から世界各国が導入を急いでいる再生可能エネルギー。日本では第一次石油ショックの経験により1974年に発足した「サンシャイン計画」を機に、新エネルギーの技術開発が進められてきた。増田淳教授は、太陽光発電の核となる太陽電池について幅広い角度から研究を行っている。

「太陽光発電の一層の普及拡大には、さらなる発電コストの削減が必要です。そのためには、①変換効率を高める ②製造コストを下げる ③信頼性を高め長寿命化する、以上の3点が重要です。私は『ペロブスカイト太陽電池』と現在最も普及している『結晶シリコン太陽電池』を多接合化した『タンデム太陽電池』の構造最適化と劣化防止・長寿命化に取り組んでいます」

タンデム太陽電池は、異なるセルを積層することで従来よりも広い波長領域で光を取り込める。増田教授はペロブスカイトと結晶シリコンをいかに組み合わせるかに着目し、変換効率と信頼性の双方の向上を目指す。

「2つのセルでは、材質はもちろん構造や特徴も異なり、これらを組み合わせるには高い技術が必要です。バンドギャップや膜の厚さなどの微調整を繰り返しながら最適化を図っています。また、いくら変換効率が上がっても寿命が短ければ意味がありません。劣化を防ぐモジュール構造やモジュール材料についても検証しています。従来の封止材に比べて低温で封止可能なシリコーンを用いることで、モジュール工程での性能低下を防げることを見出しました。また、リサイクルの観点から、将来的には封止材そのものを除去したモジュール開発も視野に入れています」

政府は「2050年カーボンニュートラル」実現を掲げており、特に太陽光発電は大きな柱になると期待されている。

「ペロブスカイトは、酸素や水分の影響を受けやすいといった課題がある一方で、短期間で飛躍的な効率向上を成し遂げており、壁面など面積制約のあるさまざまな場所やモノへの設置が期待されています。技術開発から屋外実証評価、多用途展開までを網羅し、シリコン系太陽電池を超える、高効率・長寿命なタンデム太陽電池の実用化に向けて今後も研究を進めていきます。同時に、発電分野だけでなく、蓄電や送電分野とも連携しながらカーボンニュートラルの早期達成に貢献したいと思います」

日本の発電量は現在7割以上が化石燃料による火力発電であり、資源のほとんどを輸入に依存している。太陽光発電の普及は、エネルギー問題と環境問題の両輪を解決へと導く、文字どおり「光」となるだろう。

ペロブスカイト/結晶シリコンタンデム太陽電池モジュールにおいて高効率・長寿命が期待できる構造の一例(左)と試作サンプルの外観(右)

封止材を使用しない新概念太陽電池モジュール(シングリング接続セル使用)の断面構造図(上)と試作サンプルの外観(下)

プロフィール

増田淳

工学部 教授

博士(工学)。専門は太陽光発電、電子材料。太陽電池の高効率化や信頼性について研究。令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰(科学技術賞(研究部門))受賞。新潟大学カーボンニュートラル融合技術研究センターの副センター長を務める。

研究者総覧

※記事の内容、プロフィール等は2023年4月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第44号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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