破産者をどのように救うべきか

教員コラム(若手研究者) 2023.07.12
張子弦 法学部 准教授

倒産は、一見すると難解な法律用語ですが、実は身近な存在です。学生時代に借りた奨学金や、就職後に借りた不動産ローンはもちろんのこと、事故や自然災害で返済不能になったクレジットカードのリボ払いも、これらが蓄積すれば倒産となります。倒産法は、これらの債務を包括的に処理する手続に関する法律です。

倒産という言葉は近代になって出現してきたというイメージがありますが、その原型たる「破産」は、人間社会の最も古い規律と言っても過言ではありません(今日の倒産法には、破産のみならず、債務者の事業経営や生活再建に役立つ民事再生、会社更生等もあります)。ローマの十二表法においては、破産した者が処刑され、債務者の死体が債権者に分配されるという昔の制度が見られます。古代ギリシアでは、債務の弁済ができなくなった場合、その債務が完済されるまで、債務者が債権者の奴隷とされるという定めがありました。フランス法においても、かつては、商人団体の信義・誠実と名誉を維持するために、破産した債務者を商業活動から排除するという制裁が設けられていました。

現代では、破産したらどうなるでしょうか?破産者のイメージは変わったでしょうか?

いまの倒産法は、破産者を懲罰するという懲戒的な色彩は薄まってきており、むしろ経営に失敗した起業者を救うための薬(救済措置)と捉えられています。実際、破産手続を申請した人の多くは、不測の事態に巻き込まれて債務を返済できなくなり、倒産手続の利用に至っています。

多くの先進国の経済社会では、過剰な貯蓄は社会全体の経済の活力に影響を及ぼすと考えられています。反対に、個人の借り入れと融資が活発になれば、国内消費が刺激され、起業や事業展開を通じて経済市場に活力を注ぐこともできます。しかし、消費者金融や投資などにはリスクもあります。昨日までは普通の消費者や投資家だったのに、明日は失業、離婚、病気、事故、災害などで破産となるというケースは少なくありません。失敗から学び、やり直すために、使いやすい「個人破産」の法制が必要です。一方、債務者の債務を免除すると、債権者の債権(財産権)をどのように保護すべきかといった問題が生じます。つまり、いかなる範囲で破産者の債務を免除し、破産者を救済するのが適切かという問題を考える必要があります(債権者と債務者の利益衡量の問題)。

私の研究は、企業倒産の場合の経営者責任をどのように規制すべきか、個人破産において債務者と債権者の権利義務関係がどのように変化するかといった問題を中心としています。倒産法は、「包容力」のある法分野です。商法のみならず、民法(債権法、家族法、相続法)や税法などと交錯する領域でもよく問題が生じます。最近は、民法における規律が倒産の局面において如何に扱われるかなどの問題にも取り組んでいます。私の研究は、当たり前だと思われる原理原則に疑問を投げかけて、倒産法の基礎概念の由来とその適用基準を解明することを目指しています。また、時に、諸外国の倒産法にも目を配り、海外では同様の問題がどのように対処されているかを調査し、歴史的・比較法的手法を用いて問題を分析・検証しています。さらに、今後は、民事訴訟手続のIT化に向けた法改正が進行している中で、倒産法はどのように変わっていくか、IT化が進んでいる現代社会において、破産者の個人情報保護と債権者への情報提供との間にどのような比較考量が必要か、などの問題を検討していきたいと思います。

プロフィール

張子弦

法学部 准教授

博士(法学)。専門は民事訴訟法、倒産法。フランス倒産法について研究している。北海道大学助教、琉球大学法科大学院専任講師を経て、2022年から新潟大学法学部准教授。

研究者総覧

※記事の内容、プロフィール等は2023年7月時点のものです。

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