「かえるクン」ではありません

教員コラム(若手研究者) 2023.09.19
髙津邦夫 佐渡自然共生科学センター 准教授

自身の研究を端的に紹介するのが苦手です。佐渡自然共生科学センターの新メンバーとして今年(2023年)の4月からいくつかの実習に参加しましたが、そこでは「両生類や魚類の研究者」として紹介されることが多いです。そのおかげで、野外で捕まえた魚やカエルの種同定、その種の生態情報を求められることがあります。しかし、残念ながら私は歩く図鑑とは程遠く(現在、勉強中です!)、いつも「うーん、なんですかねえ。。。」と、学生と一緒に図鑑とにらめっこをします。ただ、両生類や魚を使って研究をしてきたのは事実です。

例えば、私たちは食生活次第で体型が変わることがあるし、上司の前ではビクビクして喋らなくなったりします。これと同じように、多くの生物は環境条件に応じて個体の特徴を変化させる能力を持ちます。私がこれまでどんな研究をしてきたかをざっくりいうと、「環境条件に応じて個体の特徴がどう変化するか」であったり、「その特徴の変化が、食う-食われるといった生物間の関係にどう影響するか」を、両生類や魚類を使った実験を通して調べてきました。

例えば、両生類を使った研究では、一貫して捕食者種の共食いに注目してきました。共食いとはゾッとしますが、実は多くの動物が共食いをします。従来、捕食者種が共食いすると餌種は「食われにくくなる」と考えられてきました。というのは、共食いすれば捕食者種の個体数は減るし、また、共食い個体に食われないよう非共食い個体があまり動かなくなり餌も食わなくなるからです。しかし、私は北海道にすむエゾサンショウウオ幼生とその餌種であるエゾアカガエルのオタマジャクシ(以下、オタマ)を使った実験を通して、その逆のことも起こることを示しました。つまり、捕食者種が共食いすると餌種は「食われやすくなった」のです。そして、この効果をもたらす上で、共食いに成功した個体の特徴の変化が鍵となっていました。

エゾサンショウウオもエゾアカガエルも、どちらも雪解け時期に産卵します。ただし、エゾアカガエルの方がエゾサンショウウオよりも早く孵化することが多く、結果として、丸呑みして捕食するサンショウウオ幼生にとってオタマは食えないほど大きな餌種となります。この場合、サンショウウオ幼生がオタマを食うには、オタマ以上に早く大きく成長しなくてはいけません。共食いはそれを可能にしていました。一部の両生類や、魚類、昆虫では共食いに成功した個体が著しく巨大化することが知られています。エゾサンショウウオもそうです。この巨大な共食い個体の出現によって、サンショウウオ幼生の個体数は激減したにもかかわらず、オタマがより多く食われるようになりました。この発見をきっかけに、捕食者種であるサンショウウオ幼生の共食いが餌種にどんな影響を与えるかをさらに深く調べました。餌種であるオタマの防御的な行動や形態、変態し上陸する時の特徴、さらには、オタマや水生昆虫からなる池の餌種メンバー全体にまでサンショウウオ幼生の共食いが影響を与えることがわかりました。これらの研究は、私が博士課程の学生のときに行ったものです。そこで得た技術や知識を活かし、卒業後は、ブラウントラウトという魚を使って、飼育温度・親の出自や特徴・卵の大きさが稚魚の特徴にどんな影響を与えるかを探る研究を行いました。

文頭にも書きましたが私は2023年4月に佐渡に来たばかりです。どんな研究をしようかモヤモヤしている真っ最中ですが、これまでの研究の枠組みで佐渡らしい研究をできたらなあ。。。幸運にも、佐渡にはサドガエルという、世界で佐渡にしかいないカエルがいます。サドガエルを使うことで、一気に「佐渡らしい研究」になりそうです。しかも、彼らは主に平野部の水田と周囲の水辺にすんでいるといわれており、人の手で生み出される環境の季節変化にさらされています。サドガエルなどの水田にすむ動物を使って、何かできたらいいのですが。

エゾサンショウウオ幼生(左端・中央)とエゾアカガエルのオタマ(右端)。写真のサンショウウオはどちらもほぼ同じタイミングに孵化した個体ですが、共食いに成功した個体(左端)は非共食い個体(中央)に比べて大きく成長します。ただ大きくなるだけでなく、共食いしやすいよう、大顎化することが知られています。

両生類や水生昆虫など、水田にすむ動物を使って研究を展開したいです。。。

プロフィール

髙津邦夫

佐渡自然共生科学センター 准教授

博士(環境科学)。専門は動物生態学。北海道大学大学院博士課程修了後、静岡大学農学部附属地域フィールド科学教育研究センター、スイス連邦水科学技術研究所eawag博士研究員を経て、2023年4月から新潟大学佐渡自然共生科学センター里山領域准教授。

研究者総覧

※記事の内容、プロフィール等は2023年9月時点のものです。

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