佐渡島の海産無脊椎動物研究
個性的な生態系を持つ佐渡近海で海洋生物の進化や生態を調べる
佐渡島の豊かな自然を生かし、「森・里・海」を総合的に探究する佐渡自然共生科学センター。海洋領域を担う臨海実験所では、日本海の特性を背景に佐渡沿岸域に生息する海洋生物の多様性と特性を明らかにすると共に、フィールドワークを通した実践的海洋生物学教育をミッションに掲げている。大森紹仁助教は、ナマコやウミシダ、ゴカイなどの海産無脊椎動物を研究。スキューバダイビングなどで採集後、形状や遺伝子、生息する環境など複数の情報を統合し、その進化や生態を調べる。
「海洋生物の研究は研究環境が整っている沖縄や太平洋側では盛んですが、日本海側ではそれほど進んでいません。特に佐渡の海は、暖かい海流を運ぶ対馬暖流と冬の季節風による冷たい水塊の影響をともに受ける地点。太平洋側とは異なるユニークな生態系があり、まだまだ分からないことが多い興味深い場所です」
佐渡の漁業・観光関係各所は学問や研究に対する理解があり、非常に調査を進めやすい環境だという。2022年には大森助教を含む国際研究グループが、カイメンの一種Petrosia sp.の中に共生し、体の後方が複雑に分岐する特異な体制を持つ環形動物を発見。「キングギドラシリス」と命名した。
佐渡発の新種ゴカイ・キングギドラシリス。
体の後方が複雑に分岐する非常に珍しい体制を有する
「海洋生物にはまだまだ知られていないものも多く、それらは実は海の環境維持に対して非常に重要な役割を担っているのではと考えられます。佐渡島の砂泥海岸に広く分布するサドナデシコナマコは、海底の細かい砂や泥を食べ、有機物やバクテリアなどをこしとり栄養にします。そのため、サドナデシコナマコの生息する海域の砂はきれいな状態が保たれます」
佐渡島の砂泥海岸で多く見られるサドナデシコナマコ。
砂に潜り砂中の有機物を食べるミミズのような生態を示す
また、海を取り巻く環境は、護岸工事や埋め立て、付近に流入する河川の工事によっても急激に悪化する恐れがあるため、絶えず動向に留意する必要があると大森助教は続ける。
「温暖化やゴミの問題などの影響を受け、海の環境はどんどん変わってきています。豊かな海にある多様性を総合的に理解することは、海洋環境の保全にとっても非常に重要です」
プロフィール
大森紹仁
博士(理学)。専門は進化発生学、系統分類学、生態学。ウミシダやナマコといった棘皮動物を対象として、発生における形態形成機構の進化や生態、種分化を研究。
素顔
星の観察や登山を趣味とする大森助教は自らを「自然大好き人間」と表現する。少しでも時間ができれば登山に出掛け、佐渡の山はほぼ登りつくしたという。写真は北アルプス針ノ木岳の山頂にて。
※記事の内容、プロフィール等は2024年1月当時のものです。
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掲載誌
この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第46号にも掲載されています。