生命システムの成り立ちをタンパク質ネットワークから理解する

プロテオーム解析で生命科学全体の発展に貢献する

研究(六花) 2024.02.13
松本雅記 医学部医学科 教授

世界中でゲノム解読プロジェクトが進行した近年。2000年代前半にはヒトや主要なモデル生物種のゲノム配列の解読が完了し、ポストゲノム時代が到来した。しかし、生命がどのような仕組みで動作しているかを理解するためには、ゲノム配列情報がどのような仕組みで生命システムを構成するのかを知る必要がある。研究を進めるのはシステム生化学分野の松本雅記教授だ。

「ほとんどのゲノムは、ゲノムから発現するタンパク質の総体である『プロテオーム』に変換され、その中で構築された回路によって生命システムは動作しています。生命を工場に例えるなら、遺伝子情報であるゲノムは発注書のようなもの。発注書をもとに部品であるタンパク質が組み合わされて製品である生命現象が完成するのです。そのため私たちの研究室では、タンパク質の発現量や機能を定量的に計測し、これらが相互作用し合う分子ネットワークの構造や機能を捉えることを目指しています」

生命システムを理解する上で非常に重要なプロテオームの分析だが、多様な情報を内包し、その状態も刻一刻と変化するため、それらを一括で研究する手法は確立していない。そのため松本教授は、生化学的な手法に高性能の質量分析計という装置を組み合わせ、タンパク質の構造や機能を網羅的に解析するなど、常に最先端の技術を把握し、自らプロテオーム解析のための技術開発を行う。質量分析計を用いることで、1回の測定で約1万のタンパク質の分析が可能になったという。このように研究目的に柔軟に対応した技術を利用することは新技術の開発に繋がることが期待される。

「オリジナルの技術によって他では得ることができないデータの取得も可能になります。生物すべての生命現象を担うタンパク質の量的・質的変化の計測は、各種疾患の原因解明や、治療・診断法開発の一助になるはずです。私たちが進める基礎研究は非常に地味でマニアック。具体的な課題に対する解決策を見出す研究ではありませんが、だからこそ幅広い分野で活用される可能性があると思います。分子レベルで生命の基本原理を理解することは生命科学全体の下地になるという思いで研究を続けています」

質量分析計を用いた精密定量プロテオミクスの手法を用いて、タンパク質の発現変化を計測。正常細胞からがん化して悪性進展する過程で起きるタンパク質発現量変化を追跡した。赤が発現の増加、青が発現の低下を示す

正常細胞にがん遺伝子を導入して前がん状態細胞(TSM)を作製した。この細胞を3次元培養を行うことで悪性進展させ、その過程で何が起きているかを代謝酵素の発現を計測することで調べた。得られた結果をさらに詳細に解析することで、がん悪性進展において重要な役割を持つ代謝酵素を発見した

プロフィール

松本雅記

医学部医学科 教授

博士(理学)。専門は質量分析、タンパク質化学。質量分析計を用いてタンパク質を研究する。

研究者総覧

素顔

独学でプログラミングにも挑戦してきたという松本教授。これまでなかなか越えられなかったハードルを、ChatGPTを使うことで越えられたそう。そんな新しいもの好きという一面も持つ。

 

※記事の内容、プロフィール等は2024年1月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第46号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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