人口減少社会を生き抜く鍵は他者とのつながり

教員コラム(六花) 2024.05.21
菖蒲川由郷 大学院医歯学総合研究科(医) 特任教授

新潟県の人口は2050年までにおよそ3割減少する、という人口推計を国立社会保障・人口問題研究所が2023年末に発表しました。“地方消滅”は10年前に有名になったワードですが、日本はいよいよ急激な人口減少のフェーズに入っています。人口問題は全体の減少よりも、生産年齢人口(=働き盛り人口)が減少し、高齢者(中でも後期高齢者)が増加することが大きな課題です。働き手が減ることで、電気・ガス・水道といったインフラ、物流、その他の様々なサービスの供給が危ぶまれています。コンビニの24時間営業見直しは2019年頃から始まっています。救急車の利用も軽症や入院しなかった場合に有料化する自治体が出てきました。物流を担うドライバー不足は深刻な問題です。高齢になると需要が増す医療と介護も、今、当たり前に受けられるサービスが、将来は受けられなくなるかもしれないのです。

新潟県の人口は2050年までにおよそ3割減少する

さて、悲観的な導入となりましたが、救いはないのでしょうか?ロボットやAIといった情報技術に光を見いだすことができるかもしれません。しかし、私が注目したいのは、「人と人とのつながり」です。孤独や孤立はタバコを毎日15本吸うのと同じくらい健康に悪い、という科学的知見が有名です。他者とつながっている感覚や、他者の役に立っている実感は即ち、生きる理由や生きる力、いわば、生きがいに直結します。反対に他者とのつながりがないと、人は自ら生きる意味を見いだせずに健康を害し、早死にするとまで言われているのです。便利さや効率を優先して発達してきた社会は、人口増加が前提でした。これからの人口減少社会では、不便でありながらも他者とつながり、他者の役に立つことで生きがいに満ちた人生を目指せないでしょうか。印象的なエピソードがありました。10年以上前ですが、豪雪災害で県内の山間部にある集落が孤立した際に、医療チームが特殊車両で現地を訪れたときのことです。交通が遮断された集落で、人々は助け合って暮らしていたそうで、なんと、医療チームは漬物とお茶をご馳走になって帰ってきたというのです。場所は違いますが、私たちが追跡調査をしているミャンマーの高齢者でも、政情不安定なこの3年間を生き延びるのに有利に働いたのは、人とのつながりでした。

人類が初めて直面する人口減少という局面で、豊かに生き抜く知恵は、すでに不便でも互いに助け合うことが日常となっている地方にこそあるのかもしれません。

プロフィール

菖蒲川由郷

大学院医歯学総合研究科(医) 特任教授

公衆衛生が専門。十日町市はじめ新潟県内の市町とミャンマー、マレーシアにおける社会疫学調査から健康長寿の要因を探索している。

研究者総覧

※記事の内容、プロフィール等は2024年3月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第47号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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