マイクロパターン付きコラーゲン製材「CollaWind」
魚由来のコラーゲン製人工生体材料を開発し口腔内の傷を早期に再生する
重度の歯周病をはじめとする口の中の疾患を治療する場合に行われる自家口腔粘膜移植。病変部を治すための標準的な方法だが、新たな傷が生じるという課題がある。泉健次教授は、自家組織に替わる口腔粘膜欠損修復材の研究開発に取り組む。
「自家組織移植は、健全な組織を移植して縫い合わせることなので、組織を採取した部分には当然新たな傷ができます。また、現在使用されている人工生体材料は、材質に柔軟性が乏しく、複雑な形態の口の中で扱うことが困難です。患者さんと医療従事者両者の負担を減らし、口腔内の傷をより良く治す材料の開発を進めています」
研究では他大学の研究者や民間企業とも連携を図り、材料の表面にマイクロパターン(波状構造)を付与する技術を確立。魚由来のコラーゲンを原料とした、新しい生体材料を製作した。
「ヒトの口の粘膜は、シーツとマットレスを重ねたような構造でできていて、マットレスに当たる結合組織が、シーツに面する部分は波状になっています。生体模倣の観点から、ヒト口腔粘膜固有の結合組織乳頭を模したマイクロパターンをコラーゲン製材の表面に付与した結果、歯肉に非常に似た組織を再現することに成功しました。また、原料には化粧品等に使われている魚(イズミダイ)のうろこを採用しています。従来の動物由来コラーゲンに比べて安価であるほか感染症リスクも払拭できるため、安全・安心な医療の提供にもつながると考えています」
二つの大きな特長を持った、魚うろこ由来コラーゲン製材「CollaWind(コラワインド)」。この基盤技術を発展させていけば様々な分野に展開していけると、泉教授は将来を見据える。
「ヒトのさまざまな組織に模したマイクロパタ―ンを作成し、形状とサイズを最適化することで口の中だけでなく、皮膚などの傷を治す移植材の創出も期待できます。さらに、化粧品開発における研究材料としての提供や、ばんそうこう、パックといった日用品への変換も視野に入ります。これからも歯工連携を深めて改良を重ね、世の中のニーズをくみ取りながら開発に励んでいきたいです」
ヒトへの臨床応用にはまだ越えなければならない壁はいくつもある。それらを一つずつ乗り越え、口腔粘膜の再生医療の発展や患者のQOL 向上に寄与することを目指す。
コラーゲン製材「CollaWind Sheet」。
一方の面(左) は平坦で水はけがよくないため光沢があるのに対し、
もう一方の面(右)には波状構造が付与されているため水はけがよく光沢がない。
プロフィール
泉健次
博士(歯学)。専門は再生歯学。口腔粘膜の再生に関する研究、バイオマテリアル製品の開発に取り組む。「新潟大学発ベンチャー称号認定制度」にて認定を受けた株式会社CollaWindの代表を務める。
素顔
最近の趣味は推し活だという泉教授。
推しの音楽グループ「Number_i」の動画配信などを見てリフレッシュしているという。
※記事の内容、プロフィール等は2024年7月当時のものです。
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掲載誌
この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第48号にも掲載されています。