ごみ拾いできれいな街並み、きれいな脳環境を実現!?
新潟大学教員によるコラム"知見と生活のあいだ"
新潟市の夏の風物詩として、「新潟まつり」があります。残念ながら例年帰省のために参加がかなわないのですが、所用を終えて戻った新潟市は、まるで祭りなどなかったかのように、いつものきれいな街並みで私を迎えてくれます。これは新潟まつりの翌朝に、ボランティアの方々が行う清掃活動のおかげであると感謝しています。
ちょっと古いデータ(2015年)で恐縮ですが、新潟市は清掃活動(新潟まつりの翌朝清掃や海岸一斉清掃など)への参加人数(約14万8千人)が政令指定都市の中で第3位、参加率(18.5%)は第1位であったそうです(新潟市調べ)。ごみがたくさん発生しても、ごみを拾うたくさんの人たちがいるおかげで、街中にごみがあふれなくて済むわけですね。
ところで私たちの頭の中にも、様々なごみがたまることがあります。このごみ(「異常タンパク質」と呼ばれます)は、アミロイドβ、タウ病変、シヌクレイン病変など多様で、認知症やパーキンソン病などの脳疾患発症との関連が疑われるとともに、多くは加齢によってもたまりやすくなることが知られています。脳内にはこのようなごみがたまりそうになった時に、ごみを処理してたまらないようにしてくれる「清掃ボランティア」のようなシステムがあります。年を重ねてこの清掃システムの働きが弱ると、ごみが処理しきれずに脳内にごみがたまりやすくなると考えられます。また若くて清掃システムの働きが十分にあっても、何らかの理由で処理しきれないくらい大量のごみが発生すると、脳内にごみがたまって脳疾患を発症することがあるとも想定されています。
脳の中のごみ拾い
※この画像は画像生成A(I Dall E-3)で作成しました
私はこれまで、陽電子放射断層撮像(POSITRON EMISSION TOMOZG RAPHY, PET )という装置と検査用の薬を用いて、脳の中にたまるごみを画像で見えるようにする研究を行ってきました。これまでの研究で、脳にたまるごみと脳疾患でみられる様々な症状との関連を明らかにしたり、このごみを取り除く治療薬の開発を助ける技術を開発したりしてきました。さらに現在、今度はこのごみを処理する清掃システムの中でも、オートファジー- リソソームシステム(※2016年のノーベル生理学・医学賞は、このシステムの仕組みを解明した大隅良典博士が受賞されています)に注目をして、清掃システムの機能を評価する新しい画像化技術の開発に取り組んでいます。この研究の先に、新潟市の街並みのようにきれいな脳環境を守る、脳疾患の新しい予防・治療法が見えてくることを楽しみにしています。
脳研究所で撮像した脳内のごみをとらえた画像(タウPET)。
明るいカラーがついている脳部位に、タウと呼ばれるごみが蓄積し、神経障害を引き起こしている。
プロフィール
島田斉
認知症やパーキンソン病などを対象とした画像研究を行っている。神経内科専門医、認知症専門医、核医学専門医として臨床業務にも従事。休日の楽しみは愛犬(※世界一可愛い)との散歩。
※記事の内容、プロフィール等は2024年12月時点のものです。
関連リンク
タグ(キーワード)
掲載誌
この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第50号にも掲載されています。