新型コロナウイルスとコウモリ

新潟大学教員によるコラム“知見と生活のあいだ“

教員コラム(六花) 2021.11.01
藤井雅寛 医学部医学科 教授

季刊広報誌「六花」第37号掲載記事(2021年7月末発行)

なぜ突然、新型コロナウイルスは出現したのでしょうか。新型コロナウイルス感染症は、動物に感染していたコロナウイルスが人に感染したことから始まりました。通常、動物のウイルスが人に感染し、それが人から人へと広がることはありません。しかし、変異した動物ウイルスが人に感染し、人に適応して、人から人へと広がっていくことが、まれにあります。今回の新型コロナウイルスも、動物から人に感染して広がったものです。

では、どの動物がもともと新型コロナウイルスに感染していたのでしょうか? それを調べる方法があります。その方法とは、新型コロナウイルスのアミノ酸配列(遺伝子配列)と、動物のコロナウイルスのアミノ酸配列を比較することです。その結果、新型コロナウイルスは、コウモリのコロナウイルスとセンザンコウのコロナウイルスに最も似ていることが分かりました。したがって、新型コロナウイルスは、コウモリまたはセンザンコウのコロナウイルスに由来すると推定されています。

多くの動物がコロナウイルスを保有していますが、コウモリは特に多くのコロナウイルスを保有しています。ある研究では、1万匹のコウモリから91種類のコロナウイルスが分離されました。コロナウイルス以外にも、エボラウイルスやマールブルグウイルスなど、コウモリはさまざまなウイルスを保有しています。エボラウイルスとマールブルグウイルスは、エボラ出血熱とマールブルグ出血熱の原因ウイルスです。これらは、新型コロナウイルス感染症よりもはるかに致死率が高い病気です。
コウモリはコロナウイルスに感染しても病気にはならないようです。コウモリは、人間とは少し違う、特殊な免疫力を持っています。コウモリの特殊な免疫に適応したウイルスが人に感染し、致死性の高い病気を引き起こしたと考えられます。したがって、人間にとってコウモリは、パンデミックの原因となる危険な動物なのです。

今後のパンデミックウイルス感染症を防ぐためにはどうすればいいのでしょうか? 野生動物の中には、食用や薬用として利用されているものもあります。危険なウイルスを保有している、コウモリなどの野生動物と人との接触を減らすことを考えることが大切だと思います。

新型コロナウイルスに対する有効なワクチンが開発されました。このワクチンは、今回のパンデミック感染を収束させる鍵となります。このワクチンで集団免疫を達成するには、日本では半年から1年程度かかります。全世界では、さらに1〜2年かかります。その間に、新たな変異株が生まれ、ワクチンが効かなくなる可能性があります。従って、ワクチン接種のスピードが重要になります。また、新型コロナウイルスのパンデミックを踏まえて、パンデミック感染症に強い社会を作っていくことも重要になってくるでしょう。

プロフィール

藤井雅寛

医学部医学科 教授

専門はウイルス学。現在は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などの神経疾患の病因にウイルス感染が関与しているという作業仮説に基づいて、研究をしている。

研究者総覧

※記事の内容、プロフィール等は2021年7月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第37号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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