安価な素材で世界一効率の良いグリーン水素生成技術を開発

持続可能な脱炭素社会実現への大きな一歩

研究(六花) 2021.12.01
八木政行 工学部 教授

脱炭素社会の実現に向けて、温室効果ガスを出さないエネルギー源として水素が期待されています。水の電気分解による水素生成技術の研究が世界中で競って進められる中、八木政行教授の研究グループが、世界最小のエネルギーで水を酸素と水素に電気分解することに成功しました。

「私は大学で研究室に入った時から太陽光エネルギーを利用する研究を続けてきました。地球に降り注ぐ膨大な太陽光エネルギーを使わないのはもったいないという単純な発想からです。しかし、近年は脱炭素社会の実現への期待が急速に高まる中、今、再生可能な新しいエネルギー源を確立させないと未来が危ういという使命感をもって研究に取り組んでいます」

研究では水を酸素と水素に電気分解する際に、いかに低い電圧で実現できるかが課題でした。そのためには化学反応の際にあまりエネルギーをかけずに反応を促進させる「高活性酸素発生触媒」を開発する必要がありました。

「これまでにあった高活性酸素発生触媒は非常に高価なものでした。産業化につなげていくためには安価な素材でなければなりません。そこで鉄やニッケルなど身近な素材を触媒にできないかと考えました」

八木教授は多孔性ニッケルとチオ尿素を焼成処理することで窒化炭素に覆われた硫化ニッケルナノワイヤーを合成しました。窒化炭素の被覆によって水の中で容易に酸化してしまう硫化ニッケルの弱点を克服し、活性を向上させることに成功しました。この高活性酸素発生触媒を用いて水電解を行った結果、世界に類を見ない超低過電圧で水が分解されることを実証しました。研究発表によって新潟大学と一緒にベンチャーをやりたいと企業から声がかかるなど、実用化に向けた動きも少しずつ始まっています。さらに研究を推進することにより、世界最高効率の低コスト水素製造装置の開発が可能となるでしょう。

「大学で講義をしていると、最近の学生が環境問題に大変敏感なことに気づかされます。今の大学生は、生まれた時から環境問題が取り沙汰され、立派な環境教育の中で育ってきたからだと思います。今の大学生は、我々大人の世代とは違った、経済性よりも重く環境問題を考えられる世代です。今の大学生の世代で、脱炭素社会の実現が加速するものと大変期待しています。私も、脱炭素社会の実現に貢献できるよう、益々頑張っていきたいと思います」

多孔性ニッケル基板表面に形成されたNiSx / C3N4ナノワイヤーのイメージ図(左)と透過型電子顕微鏡画像(右)

世界最高水準の高効率酸素発生電極とのηO210値の比較。赤棒は本研究のNiSx / C3N4電極の値を示す

NiSx / C3N4電極を用いた水電解のイメージ図(Ⓒ Energy Environ. Sci., 2021, 14, 5574)

プロフィール

八木政行

工学部 教授

博士(工学)。専門は無機化学、高分子化学。太陽光エネルギーを利用した「人工光合成」の研究をライフワークとしている。

研究者総覧

素顔

自宅の家庭菜園で野菜を育てている八木教授。収穫の喜びを得ると同時に、光と水という自然エネルギーの力と尊さを感じるそうです。また、「手間を惜しまず世話をしてあげると大きく育ち、反対に放置する時間が長いと枯れてしまうこともあります」と、家庭菜園と学生指導との共通点についても話してくれました。

※記事の内容、プロフィール等は2021年11月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学統合報告書2021にも掲載されています。

新潟大学統合報告書2021

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