コロナ禍を経て

〜感染拡大、対応と新たな成長〜

特集 2024.02.26

2020年1月、国内初の感染者が確認された新型コロナウイルス。
現在もなお感染の波はあるものの、2023年5月の5類感染症への移行を機に、少しずつ以前の日常を取り戻す流れにある。
コロナ禍で失ったものも大きいが、そこで得たものと前進したものもある。
パンデミックの渦中における新潟大学の約3年半を総括する。

寂しい講義室(2020年度)
人影のない五十嵐キャンパス(2020年度)

新型コロナの時代
困難に対応するリーダーシップ

2019年12月に中国湖北省武漢市で発見された新型コロナウイルス感染症は、急速に世界各国で感染拡大。日本においては2020年1月には国内第1例目となる感染者の発表以降、徐々に感染者が増加。各地でクラスターが発生した。日常が突然失われ、医療や社会の仕組みはもちろん、大学を取り巻く教育の世界まで大きく変化。特に最初の1年は、学生生活はほぼ全て非対面を余儀なくされ、授業もオンラインが中心になっていった。2年目からは少しずつ対面へ移行できるようになり、今では以前と同様の日常生活を取り戻しつつあるように思える。約3年半に渡った、パンデミックにおける困難な時期にどのような決意・覚悟をもって臨んだのか。牛木辰男学長へのインタビューを中心に振り返る。

「感染症の大流行は人類の歴史の中で度々発生してきました。古くは天然痘やペスト、近年ではインフルエンザ、20年前にはSARSが大流行しました。新型コロナウイルスも発生直後から、『局所で終わらずパンデミックになる』と予想されていましたし、1918年からのインフルエンザ大流行の資料を参考にすると、収束まで数年を要する長丁場になると私自身も予想していました。真っ先に着手したのは、パンデミックにより制限される大学活動への対応を一元化するための組織の立ち上げです」

県内での1例目の感染者が確認されるのに先駆けて、2020年2月27日、新型コロナウイルス感染症対策本部会議が設置された。学長を中心に理事、保健管理センター所長、感染症や公衆衛生の専門家等で構成される会議は、感染状況が落ち着く2023年までほぼ毎週開催され、学内における感染対策、感染状況に応じた対策の変更、様々な問題の解決策について検討してきた。2020年3月下旬から5月中旬頃にかけての第1波の時期には、卒業式や入学式が中止され、第1タームの開始は2週間延期。非対面での授業が実施されるなどの対応が取られた。

新潟大学学長 牛木辰男

今の困難な状況は必ず終わるものだと強く伝え続けた

正しい知識と知恵
メッセージと行動指針を通して

初期の様々な対応策の中で、とりわけ印象的だったのは、学長自身が未知の感染症に対して「正しい知識を持って恐れること」というメッセージを発信し続けたことだ。感染拡大防止のための行動指針を定め、「授業・実習」「課外活動」「キャンパス内への入構」「図書館の利用」「海外留学・旅行」「国内移動」という6つのカテゴリを設定。感染状況や国、自治体の動きに合わせて、その時々の状況を4段階で評価した。

新潟大学における新型ウイルス感染拡大防止のための行動指針(学生に関わること)

「コロナ禍において重要なのは正しい知識を持つこと。その上で知恵を持ち寄り、工夫していくことでした。そのため、正しい情報と知識を迅速かつ正確に学内に伝えることを考えてメッセージを発信しました。広義では私自身も感染症の専門家なので、現状に対する科学的な根拠と、変化し続ける状況に応じて今は何をするべきで、何をするべきではないのかという行動指針を出してきました。また、不安を感じる学生、特に新入生については学部ごとに精神的なサポートをしてほしいと指示を出し、保健管理センターにも啓蒙的な情報を出してもらいました。そして、今の困難な状況は必ず終わるものだということを強く伝えました」

海外渡航にかかる可否判断基準

コロナ禍の学生生活
経済的課題への大学の対応

感染拡大の長期化が予想される中、懸念されたのが学生の経済的な問題だ。家庭の急激な収入減やアルバイトができなくなったなどの理由で、学費の納入や生活費の確保が難しくなるという問題も生じてきた。そのため新潟大学では2020年5月には「新潟大学新型コロナ対策緊急学生サポートパッケージ」をスタート。授業料免除、特別奨学金の給付、修学支援貸与金などの従来支援に加え、授業料等の納付期限の延長や新型コロナ対策緊急支援金(貸与)などの新規支援が盛り込まれた。

「国の支援より早く大学で学生をサポートする必要があると考え、短期から中長期までを考えた学修支援と経済的な支援を行いました。また、アルバイトができなくなったという学生に対しては『お金は労働の対価として出されるもの』という教育的な観点から、下級生のサポートや図書館蔵書のIC タグ付けなど、学内でのアルバイトを提供することで支援しました」

サポートパッケージは2023年9月末で終了。期間中のWi-Fiルーターの貸し出しは延べ267件、新型コロナ対策緊急支援金(貸与)は43名、修学応援・生活支援金(給付)は72名が利用するとともに、学生自立支援(アルバイト提供)は179件となった。

新潟大学COVID-19感染症報告数(2020年4月1日から2023年5月7日まで)

コロナ禍で進展した学内環境のアップデート

また、新型コロナウイルスの感染拡大は、大学の施設と学び方にも大きな影響を及ぼした。学内における水栓の自動化や、ゼミ室・実験室の換気設備の整備、総合教育研究棟の講義室への個別電源増設など、キャンパス内の環境整備もこの時期、一気に進められた。

「2020年夏に学内の全ての部屋の換気調査を実施し、設備を新たにしました。同時に学内のLAN環境も調査し、全ての部屋に整備しました。特にオンラインシステムについては日本の大学は海外に比べて非常に遅れていました。コロナ禍でその差を取り戻したのではないかと考えています」

新型コロナウイルスのパンデミック以前と以降で、最も激変したのはコミュニケーションのオンライン化のように思われる。様々な会議・対話システムが普及した結果、今では就職活動等で県外にいる学生のゼミ参加や、オンラインでの就職相談や留学が可能になるなど、学生にとっての利便性が向上し、経済的・時間的負担が軽減されるようになった。

「オンライン化はコロナ禍で一気に進み、社会を大きく変えたと思います。新潟大学ではオンライン講義のためにZoomを導入しましたが、私自身はそれがベストだとは思っていませんでした。なぜならZoomは会議システムであり、教育システムではなかったからです。しかし、オンライン講義を短期間で整備する必要があった中で、操作性が直感的で視覚的に最もシンプルなのがZoomだったのです。様々な工夫をして講義に取り入れてくれた教員には本当に感謝していますし、現在ではZoomにも様々な機能が追加され非常に使いやすくなっています。また、就職活動においても企業は一気にオンライン面接に舵を切りました。そのため、駅南キャンパスときめいとにもオンライン面接用の部屋を新たに作りました」

2021年頃からは学生生活はオンラインと対面のハイブリッド形式へと移行。それに伴い、学生が様々な活動に参加するにあたり、陰性証明が求められるケースが出てきたため、教育学部の教育実習や医学部の臨床実習等で学外に出る学生に対する検査を実施。学生の感染や濃厚接触に備えて学内におけるPCR検査や抗原検査の体制を整備していった。

2019年12月から2023年5類感染症移行までの動き

感染者把握から心のサポートまで
保健管理センターが果たした役割

学内での感染症対策において重要な役割を果たしたのが新潟大学保健管理センターだ。ウェブサイトでの感染対策や関連情報の発信、学生・職員の体調不良者への保健指導、感染者の把握、濃厚接触者の判定、入試における感染対策に取り組んできた。黒田毅所長に聞いた。

「2020年の発生当初は、様々なメディアを介して次から次へと正誤の判別もつかない情報が溢れかえる中、正しい情報をスピーディに学内周知していくことに苦労しました。また、非接触・非対面とマスク着用がスタンダードになり、友人関係やコミュニケーションのとりにくさに起因してメンタルに不安を抱える学生の増加が予想されました。例年実施している『生活と気分に関する調査』の集計データを分析すると、大きな傾向として軽度の抑うつと不安状態が増加していることが分かりました。それらを踏まえて、各相談部署と連携し、注意喚起メールの送信やメンタル相談、外部医療機関への紹介、こころの健康セミナー実施などの取組を行いました。全学生を対象に2022年度に行った調査の結果を見ても、感染拡大前の水準に戻っておらず、ポストコロナ時代は心の問題とケアが重要になってくることが考えられます」

2021年2月から高齢者や医療従事者を先行して新型コロナワクチン接種が全国的に開始されたことを受け、学内での職域接種の実施を決定。保健管理センター主導により、同年7〜11月に1回目・2回目、翌2022年4月と5月に3回目の学内接種を実施した。また、医学部法医学分野との共同で学内PCR検査の体制を整備。抗原検査を含めた管理運営を担った。センターとして初のことであり、当初は運営マニュアルもない状態でのスタートだったという。

「会場設営や物品準備、医師と対応スタッフの確保などを事細かに設定し、実際に接種が始まってからも繰り返し調整して進めていきました。医師確保など様々な苦労がありましたが、他部署の先生や職員の方々に協力いただいたおかげで、大きなトラブルや混雑はなく実施できました。この新型コロナウイルス感染症対策の取組の記録は、今後また発生するであろう新たな感染症に備えるための参考になると思います」

新潟大学保健管理センター所長 黒田毅

この時代を乗り越えた誇りが前に進む力になる

コロナ禍での学びと成長
未来への期待

新型コロナウイルス感染症は5類感染症に移行し、様々な制限がなくなってきたように思える。困難な時代に学生時代を過ごした学生や卒業生たちに伝えるべきメッセージとはどのようなものか。再び牛木辰男学長に聞いた。

「大学生活とは、多様な人と出会い、そこでのコミュニケーションを通して成長していく貴重な時間であることは間違いありません。行動が制限され生涯の友人や趣味を得る機会が少なくなってしまったことは本当に残念なことです。しかし、そのような状況下でも、知的好奇心を最大限に発揮し、限られた行動範囲の中でも今にしかできない豊かな時間を作ってもらいたいということを私は伝え続けてきました。困難な時代を生きることを余儀なくされた一方で、『コロナ禍でしかできなかったことや、発見したことがある』と話す学生がいることも事実なのです」

災害や戦争など社会的な危機の中で自らにとってベストな生き方を選択できるかは非常に重要なことのように思える。この時代を生きたことをネガティブに捉えず、そこで得たことをポジティブに捉えていく力こそ、新潟大学の理念「自律と創生」を体現し、「未来のライフ・イノベーションのフロントランナー」という新潟大学のビジョンに繋がる道標なのではないか。

「このコロナ禍に大学生活を送ることは、学生のみなさんにとって大きな試練だったと思います。しかし、この経験は必ずや力となって将来に活かされるだろうと私は信じています。なぜなら、私たちが生きている社会には様々な試練が待ち構えているのが常だからです。みなさんはこれからの人生においても予期せぬ出来事に遭遇することでしょう。『この時代を乗り越えた』という誇りを持って、前に進んでいってほしいと思います」

4年ぶりに対面開催となったオープンキャンパスには活気が戻ってきた
新大祭は2022年度に学内限定で対面開催が復活、2023年度は対面開催

コロナ禍で得たもの~学生の声~

学生生活をサポートするアプリ開発で自信
記憶に残るサービスやモノで社会に貢献する

大学院自然科学研究科材料生産システム専攻
田中大翔さん

2019年の学部入学直後、なまりのある友人に「学食に行かん?」と誘われたことを覚えています。学食前の仮設ステージでは軽音楽部が演奏し、サークルの勧誘も活発で、学生たちの人波に飲み込まれた記憶です。県外から来た同世代の友人たちは非常に刺激的で、先輩たちの大人びた服装も目を引きました。先輩から新歓時に教えてもらった噂や口コミは、ある意味で生活情報の全てでした。充実していました。
しかし、2020年にはそれができなくなりました。対面での活動は制限され、私たちは情報の発信手段を失い、新入生は情報を得る手段を奪われたのです。これは非常に不便で、新入生にとっては不遇だと感じました。そこで私は、少しでも大学生活を手助けしたいと思いアプリ・CIRCLEを開発しました。
CIRCLEは、団体運営者がサークル情報を発信し、学生は必要な情報を手に入れることができるアプリです。学生間の口コミで得られるような男女比情報や非公認団体の情報も集約されています。さらにサークルに限らず、飲食店や新大祭のコンテスト企画の情報も含めるなど、以前は先輩との会話から得られたような情報を意識して取り入れました。結果、年間利用者数が1万人弱というアプリになりました。
現在、新型コロナウイルス感染症は落ち着き、従来通りの生活が戻りつつあります。利用者数は減少し、以前のような勢いはありません。アプリ開発者としては少し寂しいですが、当初の目的は達成できたのだと思っています。ご利用いただきありがとうございました。
今後も人々の記憶に残るサービスやモノを生み出したいと思います。現在は、大学院で半導体の研究をしていますが、直近ではちょっと自慢できるような結果を、中期的には半導体業界で爪痕を残し、最終的には業界に関係なく自分の名前が検索エンジンで一番上に出てくるぐらいの貢献をします。

田中さん

※記事の内容、プロフィール等は2024年1月当時のものです。

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