学生がデザインする分野横断型の学修プログラム

オーダーメイド型のメジャー・マイナー制教育で幅広い教養と深い専門性を両立した人材を育成

特集 2021.11.01

季刊広報誌「六花」第37号掲載記事(2021年7月末発行)

Niigata University Interdisciplinary Creative Education(NICE) Program

新潟大学が2021年度から導入した「全学分野横断創生プログラム」。総合大学の豊富な教育資源を活かし、学生自身が主専攻(メジャー)と副専攻(マイナー)を柔軟に組み合わせて学びをデザインできる。次世代の教育モデルとして期待される本プログラムが描く人材育成について特集する。

学部の枠を越え専門領域を横断した新しい学び

新潟大学・全学分野横断創生プログラム(以下NICEプログラム)は、従来の学部の枠にとらわれない、複数の専門領域を横断して学ぶことができる、新潟大学独自のプログラムである。NICEプログラムの特長は、総合大学の豊富な教育資源を活かし、学生一人一人の学びをデザインするオーダーメイド型の教育であること。そして、その目的は、社会的課題に対して複眼的視野を持ってアプローチできる人材の育成であり、文部科学省の「知識集約型社会を支える人材育成事業」として採択されている。その導入の背景と内容、今後の展望について小久保美子理事(教育・学生支援担当)・副学長と、福島治副学長(学務担当)に聞いた。

「学生がそれぞれ所属する学部の専門分野を学ぶことは、社会に出てからの考え方や行動の核を形成することにつながります。しかし、実社会では専門分野の知識だけでなく、俯瞰的視野を持った人材が求められています。なぜならば近年の地域・社会・地球課題というものは、一つの専門分野だけでは解決することが困難で、様々な要素が複雑に絡み合って事象として立ち上がってきているからです。そのためには一つの事象に対して複眼的視点を持ち、一方で他の専門分野の人間と協働して向き合える人材が必要とされています」(小久保理事)

例えば、文系学部の卒業生が自治体で行政に携わり政策を考える際、その政策の根拠となるデータを解析する必要がある。また、理系学部の卒業生が企業で技術・研究職として働くとき、開発した製品が技術的に優れているからという理由だけで多くの消費者に支持されるとは限らない。なぜならマーケティングには人間の心理という側面も重要だからだ。さらに、医歯学系学部を卒業した医療人には知識や技術と同等に、患者の人生に寄り添うための哲学や倫理学が必要になるはずだ。このように、社会には一つの学問領域だけではとらえきれない事象がある。今後の社会や学術の新たな変化や展開に対して、幅広い教養と深い専門性を両立し、柔軟に対応しうる能力を持つ人材育成が求められている。

右)小久保 美子 理事(教育・学生支援担当)・副学長
左)福島 治 副学長(学務担当)

総合大学の教育資源を活かした学びのデザイン

学生が所属する学部にはそれぞれ卒業に必要な単位数が決められており、そこで専門分野の科目を履修する。この専門科目群を「メジャー(主専攻)」と呼ぶ。NICEプログラムでは、メジャーとして学ぶ専門領域とは異なる多様な専門分野を同時に学ぶことができる。これを「マイナー(新副専攻)」と呼ぶ。学部学生は卒業時に『学士』の学位記を受け取るが、マイナーを履修した学生には同時に履修証明書が交付され、別の分野を学び終えたことが証明される。

「NICEプログラムの導入の背景には、先述した社会背景に加え、新潟大学がこれまで進めてきた一連の教育改革があります。平成16年の全学科目化(※1)を受け、同17年には副専攻制度の導入、同18年には主専攻プログラム化(※2)が行われました。これにより、入学前に選択した学部での学び「主専攻」に加え、他領域も「副専攻」として学べるようになりました。さらに、平成29年度設立の創生学部では、領域学修パッケージとして学部フリーで学生自らデザインできる学びが可能になったのです。NICEプログラムは、このような新潟大学がこれまで培ってきた教育改革の一連の流れを受けて導入されています」(小久保理事)

また、以前からあった「オナーズ型マイナー(従来の副専攻プログラム)」という制度も、NICEプログラムの設計の上で大きな役割を果たした。大枠のコンセプトは類似しているが、新設したマイナーでは認定に必要な修得単位数を減らし、より多くの学生に向けて学びの機会を提供している。

「オナーズ型マイナーでは、24単位以上の修得が必要ですが、新設したマイナーでは12単位または14単位以上で認定を受けることができます。オナーズ型マイナーは、卒業に必要な単位を超えて学ぶことやGPA(成績評価値)の高さなどを条件としてきました。そのため『ハードルの高い制度』であると感じる学生も多かったように思います。しかし、近年は多くの学生が複数の学問分野を掛け合わせて学ぶことが必要な時代です。NICEプログラムは、無理のない形で学部の専門分野と異なる分野を両立して学べるように設計されています」(福島副学長)

このようにNICEプログラムは、ゼロから生まれたものではなく、新潟大学が持つ教育資産を活用・進化させる中で生まれたのだ。

オーダーメイド型教育は多様な科目群を持つ総合大学としての強み

問題意識に合ったオーダーメイド型のプログラムとは?

NICEプログラムの特長は、学生一人一人の問題意識に合った分野横断型の学修を自分でデザインできる、オーダーメイド型の教育プログラムであることだ。そして、それを可能にするのが、人文社会科学、自然科学、医歯学という多様な学問分野を持つ総合大学としての強みである。

「メジャー・マイナーの組み合わせは実に多様です。例えば、ある法学部の学生が『新潟県内の自治体でデータサイエンティストとして活躍したい』という目標を持てば、メジャーとして法学を学び、マイナーとしてデータサイエンスを学ぶことができます。あるいは、ある農学部の学生が、食糧問題を解決するために政治について学びたいという意識があれば、メジャーとして農学を学び、マイナーで政治学を学ぶことが可能です」(小久保理事)

総合的かつ複合的な学びができるNICEプログラムを通じて、学生には自ら課題を発見し、解決方法を見つけ出す力を身につけることが期待される。これは、新潟大学の理念である「自律と創生」や、「地域や世界の着実な発展に貢献することを目的とし、高い見識と良識をもって社会や時代の諸問題に的確に対応し、課題解決のために広範に活躍できる人材を育成する」という新潟大学ディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与の方針)を体現するものだ。

「文理複眼の視野」「課題を発見する能力」「発見した課題を解決する能力」「課題解決に必要な知識・技能を主体的に学修する能力」「課題に協働的に取り組むためのコミュニケーション能力」――このような能力や複眼的な視野を持ち、社会の課題解決にアプローチできる人材は、今後ますます求められると、福島副学長は語る。

「人口・政治・環境問題など、複雑な課題が山積する現在、予測不能と言われる未来を担っていくのが今の大学生であることは間違いありません。地域と社会を支え、持続可能な社会を実現するために、自分はどのように貢献できるのかと問われる時代です。専門知識だけを学べば未来永劫に安泰であるという時代は終わり、それだけで社会を生き抜いていくことは難しいというステージになっています。複雑化する課題は限定された知恵と経験で解決できるレベルを超え、確かなコミュニケーション力と他者を受容し、協働する力がなければ立ち向かえないのです」

目標・課題に応じて選択できるマイナー学修

このような理念のもとでスタートしたNICEプログラムは、メジャーに組み合わせるマイナー学修にも、学生の目標や課題に応じて3種類から選択することができる。

まず、『学修創生型マイナー』は、学生自身が、教員のサポートを受けながら、新潟大学の多様な科目群から自由に14単位以上を選び、自分だけのオリジナル学修パッケージを作れる。最も自由度の高い学びが可能だ。

また、『パッケージ型マイナー』は、すでに興味・関心のあるマイナーを絞ることができている学生向け。2021年度は食と農に関わる「アグロ・フードアソシエーツ」、新規産業創出を学ぶ「ことつくり・マネジメント」、地域を支える人材育成を考える「コミュニティ・マネジメント」、近年注目が高まる分野を学ぶ「データサイエンスリテラシー」の4パッケージが開講され、パッケージ内の科目を自分で計画的に履修することができる。今後、約20の新たなパッケージも開設予定だ。

最後に、前述した「オナーズ型マイナー」が加わる。いずれも、学生が目指すべき目標を明確にすることで、マイナーで何を学ぶか選択することができる制度だ。

時代や社会のニーズにこたえる分野横断型の教育制度は新潟大学が先駆けである

学びを支援するアカデミック・アドバイザー

このような分野横断的な学びを実現するために学生をサポートするのが「アカデミック・アドバイザー」の存在だ。マイナーの修了を目指す学生が履修する『分野横断デザイン』を担当し、メジャーとマイナーの掛け合わせや学修計画をフォローする専任スタッフである。

「アカデミック・アドバイザーは、学生と共に”どんな知識を深めていきたいのか“を考え、4年間の学びを支援し、その達成度をチェックします。また、講義時間外でも学生は専用の相談室に来て、アドバイスを受けることができます。学生と密にコミュニケーションをとれる存在がいることで、学生は安心してじっくりと学ぶことができます。今後、意欲のある学生の参加が増えていくことを期待しています」(小久保理事)

学生が求める学び地域・社会が期待する学び

このような学びの必要性は先に述べた社会的な背景、それに伴う大学改革に導かれたものだが、学ぶ本人である学生の気質、学ぶ姿勢の変化も大いに影響するようだ。

「以前に比べて、目標や課題に対して意識的な学生が非常に増えていると思います。義務教育も詰め込み型ではなく、課題解決型になってきていますし、子どもの資質・能力をベースに伸ばすことを念頭に置いています。つまり、知識技能、思考力や判断力、表現力や人間性を重視する学校教育を経て、学生は大学に入学してくるのです。小学生時から探究的な学びを経験してきているので、学びに対する意欲や積極性のある学生が多い。彼らにとって、NICEプログラムは理想的な学びを提供できるはずです」(小久保理事)

「所属学部で用意された科目しか学べない環境では、学生が真に求める学びを提供できないこともあるかもしれません。メジャーのほかにも興味を持った分野があればマイナーで学べるという環境があれば、学生も安心して学び続けることができます。興味・関心が広がり、学部は文系、大学院では理系に進学というケースも出てくるでしょう。国内の私学や海外の大学には、ダブルメジャーの制度を持つ大学もありますが、日本の国立大学における分野横断型のメジャー・マイナー制度の導入は、新潟大学が先駆けです」(福島副学長)

現存するほとんどの職業が、IT技術によって代替されると言われる近未来では、ビジネスチャンスを見極める「起業家マインド」はますます求められる。官民に限らず、どの領域でもステークホルダーは多様化・細分化し、あらゆる視点からそれぞれが持つニーズを把握しなければ、プロジェクトは円滑に進まない。新潟大学におけるNICEプログラムは、時代や社会のニーズにこたえる最新型の人材育成に大いに貢献が期待される。地域・社会に貢献する人材の輩出は大学の大きな使命だからだ。

NICEプログラム「分野横断デザイン」科目担当教員の期待

興味・関心へのアプローチは多岐に渡る。社会と自分の接点の中から複数の領域に展開することが必要

学生がメジャーを学ぶ際、「そもそも自分はなぜこの学問に興味を持っているのか」ということを根本的に理解することは意外と困難である。だからこそ、その学びをマイナーを通して深めることは、学ぶことの意味を自身で問うことにつながり、漫然と学ぶのでなく自分なりに体系づけて学ぶことが重要と、NICEプログラムを担当する教育・学生支援機構の両教員は語る。

「メジャーでの学びを世の中でどう役に立てるのかということを理解することは、非常に難しいこと。メジャーとマイナーを掛け合わせることで自分は何に興味を持ち、メジャーを学ぶのかという意味についても気づいてほしい。将来の人生をイメージして意識的に4年間を過ごしてもらいたいというのがこの科目の大きな目標です」(木村准教授)

NICEプログラムで最も自由度の高いマイナー学修の形式が『学修創生型マイナー』だ。自己選択方式で14単位以上の修得を目指し、1・2年次の『分野横断デザイン』、3・4年次の『分野横断リフレクション』が必修になっている。二つの必修科目には、学生自身が何を学ぼうとしているのか、それがどう結実したのかを明確するという狙いがある。

「『分野横断デザイン』は入門科目で、学生のマイナーの選択を授業担当教員等が支援し、学修計画を学生自らデザインします。自分の興味関心と社会課題をベースとして、オリジナルの学修パッケージを創生するのです」(木村准教授)

学生は講義前に自身がメジャーを学ぶ上での目標や社会とのつながりについての考え方をまとめてから臨む。講義形式ではなくアクティブ・ラーニングで重視されるディスカッションスタイルで行うのも特徴だ。

「自分の興味を掘り下げていくと、その興味に社会が大きく影響を与えていることに気付かされます。例えば貧困に興味を持ったとして、その興味は一つの分野では解決できません。人口問題、食糧問題、政治問題と、貧困へのアプローチは多岐に渡ります。社会と自分の接点の中から複数の領域の学びに展開していくことが必要なのです」(竹岡特任准教授)

また、『分野横断リフレクション』は学びの集大成。メジャーとマイナーを掛け合わせた学びが、自分のキャリアにどのように役立つかを自ら意識し、言語化することを目指す。学びを通して学生に期待するのはどのようなことか?

「自分の専門領域以外にもう一つの視点を持つということ。課題を発見しても知識技能がなければ解決しません。それは卒業後も必要な力です。物事を鋭く切り取れる力を育てていくことを期待しています」(木村准教授)。

「ある課題を自分のメジャーとは別のものの見方でとらえる力です。現代社会の課題解決には複数の視点が必要なのは当たり前で、以前よりもさらに高度に求められているのです」(竹岡特任准教授)

教育・学生支援機構
右)木村裕斗 准教授
左)竹岡篤永 特任准教授
NICEプログラムスタッフオフィス

NICEプログラム履修学生の声

環境問題に貢献する工学研究者を目指して

「私の専攻は化学システム工学ですが、マイナーで環境学を選択しています。なぜなら世の中で必要とされる技術や製品の開発は、温暖化や海洋汚染などの環境問題とも密接に関係しているからです。母国の中国では、近年、温暖化による異常気象やPM2.5などに代表される大気汚染が深刻な問題となっています。工学と環境学の知識を併せ持つ研究者となり、環境問題の解決に貢献できればと考えています。現在はさらに社会学にも興味を持っています。環境問題を考えるには、社会の構造や仕組み、社会における人間の営みについての理解が不可欠だからです。私はそのことをマイナーで選択した環境学の講義で気付かされました。NICEプログラムを通して、幅広い視点からの環境問題の理解と課題解決に貢献する力を身につけたいと考えています」(工学部2年)

自分の興味に合わせた学びが深まる

「ガイダンスを通してNICEプログラムは、総合大学の強みを活かした制度だと知り履修しています。私は理学部で物理学について深く学んでいきたいと思っていますが、文学や芸術、心理、社会学など、人間を対象としている学問にも興味を持っていました。現在は、その両者を結び付けた研究ができれば面白いと考えています。例えば、地震や津波などの自然災害、交通事故などの人的災害のような人命を脅かすピンチを、物理学に人文社会科学的な視点を加えて捉えることで、新しい課題解決方法が思いつくかもしれません。このように自分の興味に合わせて自らマイナーを選べる点にNICEプログラムの魅力を感じます。マイナーを上手く掛け合わせて目標を持って努力したいと思います」(理学部1年)

※記事の内容、プロフィール等は2021年7月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第37号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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