
「政治法」としての選挙法
「選挙は民主主義の根幹をなす制度である」——。このフレーズを見聞きしたことのある方は多いと思います。少なくとも日本では、日本国憲法の前文が「日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し…」との文言から始まり、国民主権の原理と選挙に基づく代表民主制の採用を宣言していますから、選挙が民主主義の根幹をなす制度として想定されていることは確かでしょう。
その選挙ですが、他面において、政治的権力をめぐる闘争の舞台としての性格を持ち合わせています。選挙の際には、候補者は議員の職や首長の座を得るために、また政党は自らの勢力拡大のために、あらゆる資源を動員して選挙「戦」を闘います。場合によっては、戦いを制するために違法な行為が行われることもあるでしょう。選挙に関する闘争というと、このような候補者同士、政党同士の熾烈な票の奪い合いをイメージされる方が多いのではないでしょうか。しかしながら、実はその他にも注目すべき側面があります。それは、選挙法のあり方をめぐる闘争です。
選挙法とは、選挙に関する基本事項や手続き、競争のルール、罰則等を定めた法です。これは裏を返せば、選挙法が変われば選挙のあり方も変わるということですから、選挙法は政治に対して大きな影響力を持つ法でもあります。さらに選挙法には、選挙の当事者でもある議員が自ら中心となって法の改正を行うという、立法手続き上の特徴があります。選挙法を立法機関の構成者たる議員が改めることは当然のことのように思われるかもしれませんが、これは、選挙というゲームのルールを、ゲームのプレイヤーが自ら変更できるということに他なりません。だからこそ選挙法改正の際には、往々にして議員同士、あるいは政党同士がそれぞれの利益の最大化のために競合と協調の関係を展開するのであり、こうした性質を備えることから、選挙法は「政治法」とも表現されるのです。
私はこの政治法としての選挙法の性質に注目し、主に日本の現行選挙法である公職選挙法を題材として、選挙法改正の実態、そして選挙法改正に関わる様々なアクターの相互作用の動態を明らかにすることを研究テーマとしてきました。公職選挙法は1950年に制定された法律ですが、主要な法改正に限っても、これまでに60回以上に及ぶ改正を受けています。私はこのように多数に及ぶ選挙法の改正が、どのようなプロセスを経てなされてきたのか、あるいはそのプロセスに、時期や分野ごとにいかなる傾向が見られるのかを定量的な手法を用いて分析するとともに、いくつかの個別事例における諸アクター(議員・政党・行政機関・審議会・マスメディア)の動向や相互関係についても、多様なアプローチによる検討を試みてきました。今後もこうした分析・検討を積み重ねるとともに、諸外国との比較分析も視野に入れつつ、選挙をめぐる権力闘争の諸相を明らかにしていきたいと考えています。
プロフィール

益田 高成
博士(政治学)。専門は政治過程論、選挙制度論。研究テーマは、公職選挙法を中心とする、選挙法改正をめぐる政治過程。同志社大学法学部政治学科助教を経て、2022年4月から新潟大学法学部准教授。
※記事の内容、プロフィール等は2026年5月時点のものです。


