生物が生きていくために重要な細胞内の現象の謎を紐解き、病気の治療や予防につなげる

ミトコンドリアオートファジーの分子機構と生理学的意義の解明

研究(六花) 2021.11.29
神吉智丈 大学院医歯学総合研究科(医) 教授

神吉智丈教授の研究室では、「細胞のエネルギー生産工場」とも呼ばれるミトコンドリアに着目し、長きにわたり「ミトコンドリアオートファジー(マイトファジー)」の研究に取り組んできました。

「ミトコンドリアは細胞の活動エネルギーとなるATP(アデノシン三リン酸)を産生する、生物にとって不可欠な細胞小器官ですが、細胞内には古くなったり傷ついたミトコンドリアも存在します。『オートファジー』とは細胞内にある不要な物質の蓄積を防ぐために消化・分解する現象で、ミトコンドリアだけを選択的に分解し、エネルギーの必要量に合わせて調整する仕組みが『マイトファジー』です。私たちはマイトファジーがどのように起こるのか、そして選択的に分解する効果や、体にどういった影響が見られるのかを多角的にアプローチしています」

神吉教授は、出芽酵母を使った研究に取り掛かり観察法を確立し、分解を促す因子(Atg32)を発見。そして、Atg32がレセプターの役割となり、アダプター役のAtg11と結合することで選択的なミトコンドリア分解が開始することを明らかにしました。

「これまでに出芽酵母におけるマイトファジーの分子機構の多くの解明に成功しています。しかし、Atg32の存在が確認できない哺乳類では、いまだにオートファジーがどのようにしてミトコンドリアを分解しているのか明らかになっていません。哺乳類でマイトファジーの分子機構を解明すること、さらに、マイトファジーが機能の低下したミトコンドリアだけを分解しているのかどうかを解明することが今後の課題です」

現在マウスやヒト培養細胞を用いた実験を進めている神吉教授。マイトファジーのメカニズムを深く理解することが医療の発展や健康社会実現への糸口になると考えています。

「ミトコンドリアの異常は様々な疾患に結び付いており、老化による筋力低下や糖尿病などもその一つです。マイトファジーが異常なミトコンドリアを分解することで細胞の恒常性が維持されていると考えられるため、マイトファジーをうまく機能させることができる薬があれば、ミトコンドリア関連疾患の治療・予防も可能になるでしょう。マイトファジーの分子機構を追究すると同時に、生理的意義や疾患との関わりにまで踏み込み、将来的な治療薬の開発や医療への応用につなげていきたいです」

隔離膜がミトコンドリアを包み込む過程を捉えた蛍光顕微鏡像。上段左からミトコンドリア(赤)、隔離膜(緑)、ミトコンドリアと隔離膜の重ね合わせ。下段は隔離膜がミトコンドリアを包み込む過程の模式図。チューブ状のミトコンドリアの一部を隔離膜が取り込んでいく過程を初めて捉えることにより、隔離膜によるミトコンドリアの取り込みとミトコンドリア分裂が同時に起きていることを明らかにした。

蛍光顕微鏡を用いた簡便なmitophagy観察。ミトコンドリア外膜タンパク質Om45に蛍光タンパク質GFPを付けることでミトコンドリアを可視化。mitophagyが誘導されるとミトコンドリアが液胞に運ばれるため、液胞内のGFP蓄積を見ることでmitophagyを検出できる。

プロフィール

神吉智丈

大学院医歯学総合研究科(医) 教授

博士(医学)。専門は生化学、細胞生物学。ミトコンドリアを選択的に分解する、マイトファジーのメカニズムについて、さまざまな生物種を用いて研究している。

研究者総覧

素顔

学生時代はラグビー部に所属していた神吉教授。当時培った体力と精神力が教授の研究を支えています。写真は卒業の際にチームメイトから寄せられたメッセージが書かれたラグビーボール。研究室内の良く見える場所に置かれています。

 

※記事の内容、プロフィール等は2021年11月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学統合報告書2021にも掲載されています。

新潟大学統合報告書2021

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