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本邦に多い若年性認知症「HDLS」の診断基準を世界で初めて提唱しました

研究

平成27年8月20日
新潟大学脳研究所神経内科の今野卓哉医師,西澤正豊教授,同遺伝子機能解析学分野の池内健教授らのグループは,厚生労働省の研究班による共同研究として,遺伝性白質脳症の遺伝子解析を行っています。このたび,新潟市で開催された第56回日本神経学会学術大会において,最新の研究成果を発表しました。

内容

HDLS(Hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroids,軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症)は,65歳未満で発症する認知症である若年性認知症の原因疾患の一つです。大脳白質が病変の主座となり,従来,HDLSを診断するためには病理組織学的な検索が必要であり,診断が困難でした。2012年にHDLSの原因遺伝子 colony stimulating factor 1 receptor(CSF-1R)が発見されて以来,遺伝子解析による診断が可能となり,本邦をはじめ世界中から変異陽性例の報告が増えています。一方で,大脳白質が侵される白質脳症の原因疾患は多岐におよび,実地臨床においてその鑑別診断は必ずしも容易ではありません。数ある白質脳症の中からHDLSの可能性を想起し,遺伝子診断の機会を効率よく供するためには,HDLSの臨床的特徴を反映した臨床診断基準の策定が望まれます。
今回,研究班でこれまでに解析した変異陽性22家系24症例と,文献検索によって得られた変異陽性50家系77症例の臨床像を後方視的に解析し,HDLSの臨床像と画像所見の特徴を系統的に抽出しました。その結果,変異陽性全81家系110症例中,日本人家系が32%と本疾患が本邦に多いことを明らかにしました。発症年齢は43±7歳,死亡年齢は52±9歳,死亡までの罹病期間は5±3年と,比較的若年発症で進行が早いこと,初発症状は認知機能障害が最も多く,次いで精神症状,運動症状の頻度が高いことが分かりました。頭部画像では白質病変のパターンや脳梁の菲薄化,脳内石灰化病変などの特徴を見出しました。
この共同研究では,これらの解析によって得られたHDLSの特徴に基づき,HDLSの臨床診断基準案を世界で初めて策定しました。同案は,発症年齢,臨床症状,遺伝形式などからなる主要項目と,支持項目,除外項目から構成され,definite,probable,possibleの判定基準を有します。本診断基準案を用いると,変異陽性例を95%以上の感度でpossible以上と診断可能でした。また,他の白質脳症との鑑別においては,解析に用いた変異陰性白質脳症53症例のうち42%を鑑別できました。さらに,白質脳症を来す代表的疾患であるNotch3変異を有する CADASIL(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)32症例の検討では,88%を鑑別可能でした。以上の結果から,本診断基準案はHDLSの臨床診断に十分寄与しうると考えられます。

今後の展開

HDLSは本邦に比較的多い若年性認知症の一病型です。本診断基準を用いることによりHDLSが正しく診断される機会が増え,HDLSの病態解明や治療法開発へ向けた研究が推進されることが期待されます。さらに,若年性認知症には社会的・経済的損失が甚大で,ご家族の負担が大きい,周囲から理解されにくい,療養環境が未整備である,などの多くの問題が内在しています。本診断基準が汎用され,本疾患ならびに若年性認知症の認知度が高まることにより,これら社会的問題の解決へもつながることが期待できます。

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