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TIMEアジア版(2023年11月6日号)インタビュー

これは、TIMEアジア版(2023年11月6日:Best Inventions of 2023)で本学が紹介された際、記事の発行に先立ち、株式会社グローバル企業によって行われたインタビューの全文を和訳したものです。
原文(英語)はこちらからご覧いただけます。

日本の教育システムの強み

インタビュアー  日本では現在、21世紀に向けて子供たちをよりよく育てることを目的とした学校教育改革が進められており、国のカリキュラム基準の変更、新しい学校評価システム、教員研修、学校と社会との連携強化などが行われています。また、語学にも重点が置かれ、現在では小学5年生からすべての子供たちに英語が教えられています。さらに政府は、AIなど今後予想される技術の進歩に備え、社会構造や雇用構造をさらに変化させることを検討しており、OECD Education 2030の議論もあります。日本は、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどと並んで、教育を受けるのに最適な国のひとつであると常に評価されています。日本の教育システムの強みとは何であるとお考えですか?

牛木学長 日本の教育制度は「6-3-3-4制」という構成です。これは小学校、中学校、高校、大学でそれぞれ過ごす年数を意味します。最初の2段階は義務教育であるにもかかわらず、ほぼすべての子供が高校に進学します。高校卒業後の進路はさまざまですが、昨年(2022年)の大学進学率は56.6%で、過去最高を記録しています。また、残りの生徒においても専門学校など他の教育機関を選択しており、高等教育機関への進学率は83.8%(2022年)です。これは、日本の労働力全体が比較的高い技能水準にあることを意味します。
最近、プレッシャーやいじめによる子供の不登校が問題になってきており、これは重大な懸念事項ですが、他の多くの国に比べると、その割合ははるかに低いほうでしょう。大学の段階で、日本では実際に卒業する学生の割合が非常に高く、およそ90%です。例えば、新潟大学医学部では毎年140人の学生のうち、最終的に130人以上は卒業までたどり着きます。医師免許の合格率も平均90%以上と高く、アメリカやヨーロッパなどの先進国よりも高いものとなっています。これは、日本の大学の入学条件が厳しいからだと私は考えています。最初に要求される成績は高いのですが、実際に大学に入学すれば、学生は十分なレベルで学業に取り組むことができます。
全般的に言えば、日本ではすべての子供に同じレベルのサポートが与えられているのに対し、欧米諸国では成績の良い子供にはしばしば追加の指導が行われ、逆に成績下位の子供の多くは脱落してしまう、そんな点も重要な違いの一つでしょうか。

海外経験から感じること

インタビュアー これまでの豊富な海外経験の中で、海外のアカデミックな環境について、日本と大きく異なると感じる点はありますか?

牛木学長 私たち(大学)はいくつかの外国と非常に強い関係を築いています。たとえば新潟はロシアとの航空路線を最初に開設した地であり、多くの教育機関と常に深い関係を持ってきました。1993年から、私が学長就任前の医学部長時代も含めて、本学では医学分野でロシアの学生との交流を行ってきました。最初は極東シベリアの3大学との交流から始まり、研究シンポジウム、そしてロシア全土との協力関係へと発展していきました。残念ながら、近年はウクライナとの紛争が続いているため、この関係は中断していますが、それ以前の交流において、ロシアと日本の教育システムには多くの共通点を感じました。
それから多くの学生は日本の学生と同じようにマナーがよいこと。一方で、ひとつ私が気づいたことに、文化の違いから生じる物事があります。例えば、文化が異なるとタイムマネージメントも異なり、立てた計画には「何かが起きている」のが普通で、しばしば行事が遅れたり変更になったりしました。これは、イタリアのサルデーニャ島に客員教授として滞在していた時にも気づいた点です。日本は何事にも厳格すぎるところがありますが、のんびりしたムードが逆に良いと感じたりもします。

留学生がキャンパスにもたらす力

インタビュアー  日本では、人口減少や労働力不足などの問題を解決するための重要な解決策の一つとして、留学生の受け入れが検討されています。高等教育機関では、留学生をめぐる議論が盛んです。留学生が留学後その国に留まることを選択すれば、企業に新鮮な視点や語学力をもたらすことができます。そのため、世界各国では留学生の誘致競争が激化しており、日本も例外ではなく、コロナ禍前には全国で30万人を超える留学生が学んでいました。貴校では、留学生が卒業後に現地に定着しやすいよう、就職支援やビジネス日本語講座など、さまざまな留学生支援プログラムを提供しています。日本の経済・社会の発展にとって留学生の重要性は何だと思いますか?

牛木学長 COVID-19のパンデミックの際、政府の感染症対策に対応するために、かなりの量の授業がオンライン形式に移行しました。この経験は大きな混乱を招きましたが、私たちはキャンパスでどのような「経験」を作りだしたいのかということを考えさせられました。まさに、留学生が大学にいることで、他では作りにくい多様な文化がもたらされること、それがすべての人に有益なことなのだと、今私たちは確信しています。
現在、学内に新しい学生寮を建設する計画があります。そこでは日本人学生と留学生が一緒に生活し交流することができます。また、さまざまな国の学生が集まって交流できる「グローバル・コミュニケーション・エリア」の構築も検討しています。将来的には、他の大学と差別化できるユニークな体験を提供できるようにしたいと思っています。より広く考えると、新潟県はテクノロジーから農業、食品科学に至るまで、さまざまな産業が集積する非常にユニークな県であることから、まさに多様性を受け入れることができると信じていますし、私たちはその変化の原動力になりたいと思っています。
もちろん、このような目標を実現するためには、多くのシステムを導入しなければなりません。最も大きな課題のひとつは、学生が卒業後に地元での雇用を確保できるようにすることです。日本では、大学は18~22歳の若い学生が個性を確立する時期だと思いますが、この時期に国際的な経験を積むことは、これに関わる全員の視野を広げることにもつながり、非常に有益だと考えています。日本に来る留学生も、海外に行く留学生も、良くも悪くも母国を異なる角度から見ることができます。
また、日本全体の利益を考えると、人口が減少していることからも、多くの地方は地域の労働力として来て働いてくれる人を必要としています。日本の地方中核都市の大学への留学は、その第一歩となることも多く、私たちもその一翼を担いたいと考えています。

科学の限界に挑戦:新潟大学のDNAとしての医学研究

インタビュアー  新潟大学はトップレベルの教育拠点であると同時に、さまざまな分野の研究機関も設立しています。その代表的なものが、日本の国立大学では初めての「脳研究所」で、アルツハイマー病など加齢に伴う病気の研究を行っています。それとはまったく異なる分野では、ニッチな分野での研究も行っており、2017年からは日本酒の文化的・科学的研究の国際的な拠点として「日本酒学センター」が活動しています。最近の貴大学の誇れる研究成果を教えてください。

牛木学長 新潟大学は、10学部、5研究科、2つの研究所、大学病院を擁する大規模で研究志向の総合大学です。そのため、特定の分野を挙げるのは難しいことです。アメリカの「総合大学」の概念は幅広いコースを提供する大学であり、研究よりも学部教育に重点を置いている場合が多いと思います。しかし、新潟大学は多くの優秀な研究者を抱えていますし、彼らは国際レベルのプロジェクトに取り組んでいます。
新潟大学は100年以上の歴史があり、もともとは『官立新潟医学専門学校』としてスタートしました。したがって、医学研究は新潟大学のDNAの一部です。例えば、荻野久作博士による排卵周期の研究(1930年)は、現在「荻野式リズム法」として知られる避妊法のアイディアにつながり、避妊具を用いないことからカトリックの方々の支持を得ました。
また、多くの基礎研究とともに、大学病院では多くの臨床試験も行っています。本学の脳研究所のように、その両方のプロジェクトを行っている分野もあります。たとえば、そこでは最近、アルツハイマー病のように、異常なタンパク質が脳内で問題を引き起こす神経変性疾患に着目しています。アルツハイマー病の場合は、「タウ」というタンパク質が長期にわたって蓄積しますが、パーキンソン病の場合では「シヌクレイン」というタンパク質が原因だと考えられます。
タンパク質の蓄積によるこの種の病気は、現在一つの疾患群として研究されており、新潟大学は、このニッチな分野において科学の限界に挑戦してきていると思います。このような病気についてより深く知ることができれば、その病気を治すための薬を開発するという生物医学的な段階に進むことができます。現在、本学の研究所で研究されているものには、通常は不溶性のこうしたタンパク質を「溶かす」ことで、脳内により良い結果をもたらすような薬があります。
本学の脳研究所の特徴のひとつは、ヒトの脳を主な研究対象としていることです。私たちはユニークな「ブレインバンク」を有していますが、これが国際的により大きな研究ネットワークの一端を担うようになることを期待しています。このコレクションの中には、ヒト脳組織サンプルの大規模なデータベースがあります。これは全世界のトップ10に入る規模のものです。これらのサンプルを特殊な色素で染色しタンパク質の変化を調べたり、MRIやPETを使ってそれらを比較したりすることができます。こうして、認知症共生社会の道標となる、脳の分子情報と機能情報を統合した「脳地図」を完成させる予定です。
他にもさまざまな分野の研究に取り組んでいます。そのうちのひとつが、既に取り上げていただいた「日本酒学」であり、ワイン学研究センターがあるフランスのボルドー大学との共同プロジェクトです。

国際連携のさらなる強化

インタビュアー  教育界における国際的なパートナーシップには多くの利点があり、研究や理解を強化する一方で、学生に語学力や異文化間スキルを向上させるまたとない機会を提供しています。例えばヨーロッパでは、いわゆる「エラスムス世代」と呼ばれる、より広い国際社会への認識と統合を意識した教員や学生が誕生しています。新潟大学は、アジア、ヨーロッパ、北米の数多くの教育機関と交流パートナーシップを維持するだけでなく、インド太平洋地域の環境問題に焦点をあてた「S-EARTH」プログラムなど、いくつかの特別プロジェクトにも取り組んでいます。今後、国際的なパートナーシップをどのように活用していこうとお考えですか?

牛木学長 本学の海外とのパートナーシップに関しては、欧米との強い結びつきはありませんが、折に触れて共同研究や交流は進めています。これからの3年間は、これらの連携強化に力を注ぎたいと考えています。イギリスのブリストル大学との関係を例にあげれば、大学間協定はあるのですが、わずかに物理学教室との私のごく個人的な関係がある程度で、今は積極的な全学的プログラムがありません。このように、最大の目標は実際に大学で行われていることを統合し、学生が海外の相手ともっと自由に交流できるようにすることです。
現在、インドとオーストラリアの地質学に特化した大学とも、オンラインと対面の両方を活用したプロジェクトを進めています。私もこの連携促進にむけて、今年末にインドを訪れ、多くの教育機関を訪問して本学との関係を強化する予定です。ヨーロッパやアメリカの大学とも同様のネットワークを構築したいと考えていますが、時差があるため、現実的には少し問題があります。

ライフイノベーションのフロントランナーとなる:2030年に向けたミッション

インタビュアー 貴学の起源は戦前までさかのぼり、1922年に県立病院が新潟医科大学に発展し、その27年後に貴大学が設立されました。創立75周年を間近に控えた今、新潟大学は北陸地方における強力な高等教育機関として成長することができました。将来構想についてお伺いしましたが、「新潟大学将来ビジョン2030」では、学生が自ら学びをデザインできる場づくりや、国際的なフラッグシップ研究の育成など、いくつかの目標を掲げられています。また、3~5年の中期計画についてお聞かせください。

牛木学長 私たちが将来に向けて目指しているのは、未来のライフイノベーションのフロントランナーになることです。生物学・社会科学のどちらの側面においてもです。それが人類を幸せにする核心であると信じ、2030年の中期的目標に掲げました。そのために、学際的な学修を増やすことも必要でしょう。現在、本学ではアメリカの多くの大学と同様に、メジャー(主専攻)コースとマイナー(副専攻)コースを学修できるオプションを提供しています。
大学は「知識」を教える場所ではなく、学生が自分の頭脳をどのように活用するかを学ぶ場所であるべきです。そのため、多種多様な科目が用意されていることは、学生の批判的思考力を養うのに役立つと思います。
中期計画を効果的に示すために、私たちは『教育・研究・社会共創』という3つの柱を掲げています。その中で、既存の研究センターを充実させるとともに、海外の同様の研究機関と連携していくことを目指します。