「知の循環」で大学を変える ―構想から実装へ―
新潟大学は、「自律と創生」を理念とし、「ライフ・イノベーションで人と社会の未来を切り拓く」大学を目指しています。
私たちが目指すのは、知を創り、人を育て、その知と人が社会で新たな価値を生み、そこで見いだされた課題や価値が再び研究と教育へ還流していく大学です。研究、教育、社会共創、医療、大学経営をそれぞれ別々に進めるのではなく、一つの大きな「知の循環」としてつないでいく。研究が深まり、人が育ち、社会とのつながりが広がり、そこで得られた成果や課題が次の研究と教育につながっていく。私は、この循環を大学全体で回していきたいと考えています。
なぜ今、このメッセージを出すのか
2025年1月のJ-PEAKSと地方大学・地域産業創生交付金を皮切りに、FLAGs、大学病院機能強化推進事業、契約学科、NEDOの大規模産学連携、EPOCH、そして経営改革促進分まで、この1年半余りの間に、本学では大きな事業が相次いで動き始めました。
これまでは、改革に必要な事業や資源を獲得し、立ち上げる段階でした。今、それらを教育、研究、社会共創、医療、大学経営の具体的な変革へとつなげる段階に入っています。
事業を獲得することや、計画どおりに実施すること自体が目的ではありません。新潟大学をどのような大学に変えていくのかを私たち自身が定め、その実現のために事業、資金、人材、制度を活用する。だからこそ今、目指す方向を大学全体で共有したいと考えています。
8つの事業を「知の循環」でつなぐ
図1に、これまでに「何を獲得してきたのか」を時系列で示しました。

図1 この1年半で獲得・始動した主な大型事業 ― 構想から実装へ
さて、これに対して、それぞれの事業は、新潟大学をどう変えていくのでしょうか。その役割を「知の循環」の中に位置づけて示したものが図2です。

図2 8つの事業を「知の循環」の中で捉える
中心にあるのは、①知を創る、②人を育てる、③社会に実装する、④新たな問いが大学に戻る、という循環です。8つの事業は、それぞれ異なる側面からこの循環を支える、改革のエンジンです。
重要なのは、事業を出発点に考えないことです。J-PEAKS、FLAGs、EPOCHを実施すること自体が目的ではありません。まず、新潟大学として何を変えるのかを定め、その実現のために事業を活用する。この順序を大学全体で共有したいと思います。
「知を創る」――研究の強みを、大学全体の力へ
新潟大学には、「脳といのち」「食と健康」をはじめ、長年培ってきた研究の強みがあります。その土台にあるのは、自由な発想に基づく基礎研究と、一人ひとりの研究者による独創的な挑戦です。J-PEAKSでは、こうした強みをさらに伸ばすとともに、若手研究者を含む多様な研究者の挑戦を支え、世界を先導する研究の創出を目指します。そして、そこで生まれる知や技術、人材を、異分野や国内外の研究者との連携を通じて、大学全体の研究力向上へとつなげていきます。
EPOCHは、先端研究設備に加え、技術職員や高度専門人材も大学全体で共有し、研究を組織として支える基盤を整える取組です。強い研究を核として人と分野がつながり、そこから新しい研究が次々と生まれる大学へと変えていく。それが、「知を創る」改革です。
「人を育てる」――博士3倍増の先に、どんな大学をつくるのか
FLAGsでは、博士人材を大幅に増やすことを目標に掲げています。しかし、「博士3倍増」は数値目標であって、目的そのものではありません。本当に問われているのは、その過程を通じて、新潟大学の教育と研究をどう変えていくのかということです。
各学部・研究科には、「博士課程の学生が増えることで、教育研究をどう変えるのか」「学部から大学院への接続をどう変えるのか」「研究室での高度な専門教育を基盤に、分野横断・社会共創の機会をどう充実させるのか」「博士人材が地域、企業、そして世界で活躍するために、自分たちは何を変えるべきか」といった問いを、自ら立ててほしいと思います。
まず、5年後にどのような学部・研究科になっていたいのかを描き、その姿から逆算して、何を変える必要があるのか、何が障害となっているのか、大学本部に何を求めるのかを考えてほしいのです。人員、研究指導に充てる時間、研究費、施設、生活支援、キャリアパスなどの課題も、こうした将来像を起点に考えることから始まります。同時に、大学本部も、技術支援や事務・専門業務の支援を充実させ、教員が教育研究により集中できる時間と環境を整えていきます。
契約学科は、「人を育てる」改革の一つです。企業と大学がともに人材を育て、教育を社会の課題と直接結びつける。学生や保護者、教員、企業・自治体などの意識も含め、博士人材を大学と社会がともに育てる環境へと変えていきます。
「社会に実装する」――社会とともに新しい価値を生み出す
内閣府の地方大学・地域産業創生交付金では、「おいしさDX」を核に、地域の企業や自治体とともに新しい価値を生み出す取組を進めています。NEDOの大規模産学連携では、さらに一歩踏み込み、研究成果を新たな産業や事業へとつなげていきます。
大学病院も、この循環の中に位置づけられます。高度医療・先端医療を教育や臨床研究につなげ、そこで育った人材と新しい医療を地域へ還元する。地域医療と高度医療を対立するものとして捉えるのではなく、互いに支え合い、強め合う仕組みをつくります。
社会共創とは、大学が知を社会へ一方向に提供することではありません。社会の現場に関わる中で新たな課題に出会い、その課題が大学に戻って次の研究や教育につながり、そこから生まれた知や人材が再び社会へ還っていく。そこまで含めて、私たちの考える「知の循環」です。
「新たな問いが大学に戻る」――地域から世界へ、世界から新潟
社会との接点が広がるほど、大学には新たな問いが持ち込まれます。その問いを次の研究と教育へつなぐことで、「知の循環」は一度きりで終わることなく、さらに大きく広がっていきます。
また、この循環を国内だけで閉じることもできません。世界から優れた学生や研究者が新潟に集まり、新潟大学の学生や研究者も世界へ出て、ともに学び、研究する。J-PEAKSの国際共同運用ラボや、FLAGsの海外拠点、リエゾンプロフェッサーは、そのための仕組みです。
世界から集まった人と知が新潟で交わり、そこから新しい知と人材が再び世界へと広がっていく。そうした国際的な循環をつくりたいと考えています。
「知の循環」を支える大学経営改革
この循環を持続させるためには、大学経営そのものも変えていかなければなりません。経営改革促進分では、長岡技術科学大学、上越教育大学との連携を通じて、共同化できる大学基盤を共有し、限られた人材、資金、施設を特色ある教育研究へ戦略的に振り向ける、新しい経営モデルに挑戦しています。
さらに、大学の理念や戦略を理解し、研究、教育、社会共創、国際化、経営をつなぎながら、構想を具体的な取組へと移していける人材が必要です。UAをはじめとする大学経営人材の育成・確保・組織化も、そのための取組です。優れた研究者や教育者だけでなく、大学そのものを変えていく人材も育てる大学にしたいと考えています。
一人ひとりが「知の循環」を回す
8つの事業は、それぞれが独立しているわけではありません。研究の強みを伸ばす。人を育てる。社会とともに新しい価値を生み出す。高度医療を社会へ還元する。世界とつながる。そして、それらを支える研究基盤と大学経営を変える。こうした取組が結びついてこそ、「知の循環」が動き始めます。
これだけ多くの改革の機会が同時にそろうことは、そう何度もありません。大型事業を改革のエンジンとして、新潟大学そのものを変えていく。そのために、大学構成員一人ひとりに、あらためて問いかけたいと思います。
「自分たちは何を変えるのか。その変化によって、新潟大学をどのような大学にしたいのか。」
新潟大学を、地域に深く根を張りながら世界とつながり、世界から人と知が集まり、ここ新潟から新しい価値を生み出し続ける大学にしていく。そのために、「知の循環」を大学全体で回し、大学と社会がともに強くなる流れへと育てていく。私は今、この構想を実装の段階へ進めていきます。
令和8年10月7日
新潟大学長 染矢俊幸