大学教育と研究のさらなる飛躍へ

〜創立から75年、法人化から20年の現在〜

特集 2024.08.05

新潟大学は旧制新潟医科大学と旧制新潟高校を核に、1949年5月に国立学校設置法公布に基づいて新制の国立大学として設置され、2024年で75周年を迎えた。
直近の25年間で最も大きな節目となったのは2004年の国立大学法人化だ。
新潟大学では、法人化を機に人文社会・教育科学系(当時)、自然科学系、医歯学系からなる教育研究院を設置し、学部・研究科の教育活動の高度化と研究活動の飛躍的な発展を図ってきた。

1949年の新潟大学開学式の様子

教育研究院の設置により「教教分離」へ

新潟大学は2004(平成16)年4月の国立大学法人化に伴い、新しく教育研究院を設置した。これは法人化前の学部・研究科に所属していた教員を「人文社会・教育科学系(当時)」「自然科学系」「医歯学系」のいずれかの学系の所属とし、「医歯学総合病院」「脳研究所」等とともに、教員の所属組織であると同時に、研究を行う組織として位置付けるものだった。学生が所属する学部及び研究科(大学院)へは、教育研究院から教員が派遣され、主として学生・大学院生に対し教育を行うこととなった。すなわち教員組織と教育組織を切り離した「教教分離」体制への移行であった。
そして現在、新潟大学将来ビジョン2030に掲げた、「地域社会の交流拠点の形成」「社会とつながった学修者本位の教育システムの構築」「全学の知を結集した新たな研究フラッグシップの形成」を実現するため、3学系の有機的な連携が一層期待されている。牛木学長と教育研究院の柴田人文社会科学系長、鈴木自然科学系長、佐藤医歯学系長に、これまでの道のりを振り返るとともに、創立100年に向けた将来像を語ってもらった。

学長 牛木辰男
人文社会科学系長 柴田透
自然科学系長 鈴木敏夫
医歯学系長 佐藤昇

最先端技術を実社会で生かしていくために文系のはたす役割がある

3つの教育研究院
これまでの歩み

-教育研究院制度により、これまでの学部の枠や分野の境界を超えて、多様な研究活動や組織作り、教員グループ形成が進められてきました。まずは各学系のこれまでの主な取組について教えてください。

柴田・人文社会科学系は、社会の変化に迅速かつ適切に対応し、教育・研究・社会貢献の活動を高度化するために、人事や予算などを部局の枠を超えて柔軟に運用してきました。研究においては人文社会科学系が中心となり、2018年に全学共同教育研究組織として環東アジア研究センターが設立されました。それが2022年にアジア連携研究センターとして再編され、文化基層研究、現代共生研究、未来創造研究の3つの領域で、分野融合の研究を進めています。また、担当学部の枠にとらわれずに組織される教員グループであるコア・ステーション(※)としては、地域映像アーカイブ研究センターの他、10のグループが認定されています。

鈴木・自然科学系では、2006年度から附置コア・ステーションが設置され、現在9つのコア・ステーションが運営されています。中でも新潟大学・刈羽村先端農業バイオ研究センターは、刈羽村に建設されたサテライト実験施設を核とし、地域農業の振興と環アジアを見据えた農業バイオ教育研究拠点となっています。

佐藤・医歯学系でも学系の特徴を生かし、6つのコア・ステーションを設置しています。2007年に設置された国際口腔保健教育研究センターは、歯学系列の教員に加えて保健学科系列の教員が参画して、世界保健機関(WHO)の協力センターとして口腔保健分野の国際的教育・研究拠点の形成等に取り組んでいます。また、2010年に設置された臓器連関研究センターでは、医学系列と歯学系列の教員が参画し、高齢者医療の研究開発の総合医療データベースの構築及び発展と、本データベースを積極的に活用した啓発活動を行っています。

牛木・新潟大学全体としては、研究を統括し、俯瞰しながら国際研究推進、研究環境強化及び研究人材育成の3つを柱として、全学的な研究戦略の策定と重点分野への資源配置を進めてきました。各学系が中心に取り組んできた特色ある研究組織から、研究フラッグシップ形成に導くために、研究基盤の拡充・整備を戦略的に推進し、本学の研究水準の向上を目的とした研究統括機構を設置しており、より全学的な体制で臨むものは、研究統括機構のコア・ステーション(※)として認定しています。

鈴木・その成果の1つとして研究統括機構のコア・ステーションから全学共同教育研究組織化したビッグデータアクティベーション研究センターが挙げられると思います。新潟大学におけるビッグデータ、AI技術の分野融合研究、人材育成、産学地域連携の推進拠点として、様々な役割を果たしています。

佐藤・ビッグデータアクティベーション研究センターには、医歯学系からも教員が多数参加し、協同して人工知能(AI)等の情報通信技術を基盤とし、各研究分野に蓄積されている大規模データから従来の枠を超えた知識や価値を創造し、社会実装することを目指しています。

牛木・全学的には他にも、若手研究者の一括採用による育成(スイングバイ・プログラム)や、異分野融合研究を促進するイベントの開催などに力を入れています。

※コア・ステーション
学部、研究科等の既存の学内組織にとらわれない本学の教員等のグループが、高度な大学教育プログラムの開発や卓越した研究拠点の形成を目指して行う教育・研究活動を、申請に基づき学長が認定する制度。学系や学部・研究科、研究統括機構等の下に設置される。

現在の教育研究院の構成(2024年5月1日現在)
各学系の下には系列が置かれており、教員は専門分野に応じて、その構成員となる。

教育研究院と学部・研究科の関係

最先端技術を創出し開発力と人材育成を担う機関を目指す

学系の存在が時代に即した教育開発も促す

-続いて、教育面における各学系の状況はいかがでしょうか?

鈴木・自然科学系では、各学部等で情報交換をしながら、今求められる人材のための教育プログラムを開発しています。2010年度に大学院自然科学研究科、2017年度に理・工・農学部が同時に改組を行い、教育プログラムを見直しました。他にも学系全体でグローバル教育を推進するための組織として、自然科学研究科に教育研究高度化センターを設置しました。その一部門として研究科および各学部国際交流担当副学部長をメンバーとした国際化推進部門において外国人留学生の確保や海外機関との学術交流を企画・運営することとしています。

柴田・社会課題の解決に焦点をあてた学際的な教育を行う学部として、2018年に創生学部が設立されました。理論だけではなく実践的な学びを重視しているところが特徴です。

牛木・創生学部は、人文社会科学系と自然科学系の教員が担当しており、到達目標創生型プログラムを提供しています。様々な分野の教員が集まる総合大学だからできる学部でもありますね。

佐藤・医歯学系では、2018年度から医学系列と保健学系列の教員が多職種連携教育を行うなど、教育面でも系列間で連携し社会で活躍できる医療系人材の育成やカリキュラムの検討に取り組んでいます。

牛木・20年前と比較し、学生主体の学部と教員組織の学系を分ける意味が浸透しているように感じますし、分野の境界が消えつつある。時代が変われば新しい学問も出てくる。そこに対応する土壌を作ることができたのではないかと思います。全学的な視野からの教育面では、授業の全学科目化や副専攻制度等の改革の流れから生まれたNICEプログラムは象徴的な内容です。学部の専門分野の学びをベースに、学部を超えた他分野も積極的に学ぶことができるメジャー・マイナー型教育プログラムは、学外からも高い評価を得ています。

1974年、創立25年当時の五十嵐キャンパス
1974年、創立25年当時の旭町キャンパス

激動する社会に対応できる医療人材と世界に誇れる医歯学研究を発信する

3つの学系を持つ総合大学としての強みが新たな価値を生む

-続いて各学系の強みや特徴的な研究について教えてください。

佐藤・医歯学系では2020年12月には3系列(医学・歯学・保健学)が協議の上、『医歯学系のビジョン』を策定し、「激動する社会に対応できる医療人を育成し、世界に誇れる医歯学研究を発信する教育研究拠点」をワンフレーズに定めました。また、本学が設置している日本酒学センターにも、医歯学系の各系列から複数名の教員が協力教員として参画し、日本酒学に関わる教育・研究・情報発信・国際交流を柱に活動を展開しています。

柴田・日本酒学センターには人文社会科学系からも参画しています。また、アジア連携研究センターを核に、モンゴル考古学やアニメ・アーカイブ研究、シベリア先住民諸語などの先進的な研究プロジェクトが進行しています。

鈴木・自然科学系においても、農学系の教員が中心となり日本酒学センターと連携して研究を進めています。また、刈羽村先端農業バイオ研究センターでは高温、高CO₂耐性をもつ『新大コシヒカリ』を開発しました。カーボンニュートラル融合技術研究センターでは、脱炭素社会の実現に向けて、太陽熱・太陽電池、水電解技術、及び融合技術を開発し、その実装を目指しています。量子研究センターでは宇宙や自然現象の基本法則の解明を進め、新規物質・デバイス開発などの技術応用研究を行なっています。工学力教育センターでは実践的なものづくり教育、農学部でも食と農のエキスパートを育てる取組を展開しています。

牛木・日本酒学センターのように、「日本酒」という対象に各学系の領域を横断して研究を行うことができるのは、総合大学ならではの取組であり、強みとも言えます。今後は学系のフラッグシップとなる研究を生み出してほしい。3つの学系を持つ総合大学であることを強みに、革新を生み出すことを期待します。

現在の五十嵐キャンパス
現在の旭町キャンパス(赤門)

3学系の有機的な連携が人類の幸福に貢献する革新を生み出す

新潟大学100周年の未来を見据えて

-最後に、各学系の将来への展望を聞かせてください。

鈴木・研究においては、ビッグデータ、カーボンニュートラル、量子研究、バイオ研究などの強みとなる分野を強化・発展させ、その研究成果を広く社会に発信していきます。また、その研究成果を社会に還元することを積極的に進めたいと思います。教育においては、部局の枠に捉われることなく、基盤となる分野を維持しながら新しい分野、融合分野の教育を行う教育プログラムを構築し、新潟の地域社会が求める人材の育成を目指します。

佐藤・新潟県は、医師不足が深刻な問題となっています。医歯学系においては、地域で活躍できる医療系人材(総合診療のマインドを持った医師、コミュニティナース、歯科医師、歯科衛生士、診療放射線技師、臨床検査技師など)を育成し、多様な能力を発揮して地域創生に寄与できるよう、医歯学総合病院と県内医療機関の分業・協業体制の構築や、本学の地域医療DXの取組と連携して環境整備を進めていきたいです。それは地域課題を解決するプロジェクトのアウトカムとなりえますし、世界的に応用可能な新潟大学パッケージの形成が目標です。時代のニーズに対応しつつも、本来のミッションを確実に継続・発展する体制を目指していきたいと思います。

柴田・理系、文系という学問の枠を超えて、文理融合や分野融合により、従来と比べてより新しい発想やアプローチにより、学問の新たな展開を行い、それに基づいた教育や社会貢献を行っていきます。新しく登場する技術を、制度や組織に落とし込み、社会に生かしていくためには文系にできるサポートがあると思います。具体的な動きとしては、2023年にELSIセンターが設立され、科学技術の持つ法的・倫理的・社会的課題について研究しています。

牛木・ELSIセンターがある日本の大学はまだまだ少ない。文献研究が新しい価値を生み出すこともまだまだあります。学系を超え、ぜひディスカッションを行ってほしいと思います。

佐藤・医歯学系では、AIやがんゲノム医療、系列間での共同研究を進展させていきます。各系列が連携の上、健康長寿や医療格差解消による地域活性を担うヘルスケア人材育成、医療系多職種や食の研究者、地域社会を支える幅広い人材との協働・共創などを目指す育成拠点の整備を目指します。

鈴木・社会の経済的発展と高齢化社会、エネルギー問題、食料問題、気候変動など社会的課題の解決を両立させるSociety6.0(超スマート社会)の実現に向けて自然科学系分野が果たす役割は大きいと思います。新しい社会を実現するために求められる最先端技術を創出する研究・開発力と人材育成を担う機関として、社会から求められる新潟大学を目指していきます。

柴田・さらなるAIの発達により、教育のあり方も大きく変わっていくことになるでしょう。人口減少も予想されるなか、どの年代も対象とした生涯学習の場として、また日本人だけでなく、海外の人々とともに、研究し、教育を進めていきたいです。

牛木・本学の掲げる将来ビジョンを実現する上でも、各学系による取組は非常に重要です。10学部は単独ではなく、3つの学系の中で横断的な分野で社会に対応していくように思いますし、学系の垣根もなくなっていく必要があります。将来ビジョンで掲げた「未来のライフ・イノベーションのフロントランナーとなる」においては、「ライフ=医療・福祉」ではなく、人類のすべての営みを指します。人類が幸福になるための革新には3学系の有機的な連携が必要なのです。それが新潟大学の魅力と強みになるのだと思います。

※記事の内容、プロフィール等は2024年7月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第48号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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