海岸林の多様な生態系と温暖化を見据えた次世代の森づくり

海岸林の遷移とその背景を解明し多様性の高い森づくりを目指す

研究(六花) 2022.05.20
中田誠 農学部 教授

海岸沿いの居住地や農地を飛砂や潮風から守るなど、生活環境の保全において様々な役割を担う海岸林。その主要樹種がクロマツで、新潟でも各所でクロマツ林が造成されている。しかし、近年はマツ枯れ被害や植生遷移により、海岸林の様相が変化をみせている。中田誠教授は、海岸林の生態系と環境との相互関係について研究を進め、クロマツ林の維持や、新たな海岸林造成に取り組む。

「松くい虫によるマツ枯れ被害が深刻化する一方で、新潟市の海岸林ではクロマツ以外の樹種、特に常緑広葉樹が多く確認されています。なぜそれらが自然に生育しているのか、そして昨今の気候変動が生態系に与える影響について、あらゆる角度からアプローチしています」

研究では海岸林の植生調査や樹木の生育特性、野鳥の生態調査などを学生とともに実施。常緑広葉樹の自然侵入の背景には野鳥が関係し、地球温暖化が植生遷移を加速させていることを明らかにした。

「鳥類標識調査を行っている野鳥の会の方々と協力して野鳥の食べ物を調べました。その結果、住宅地の庭などに植えられた樹木の実を野鳥が食べ、糞とともに種子をクロマツ林内に落とすことで、多様な樹木や低木が生育していることが分かりました。また、確認された常緑広葉樹の約2/3の樹種が本来は新潟県では分布していなかったものでした。温暖化によって、これまで生育が困難だった暖地性の樹種が定着して群落を形成したと推測できます。常緑広葉樹は今後も良好な成長が見込まれるため、これを活かした海岸林造成を進めていくべきだと考えています」

新潟市で松くい虫被害が確認されるようになって以降、薬剤を使った対策や植樹活動を通じてマツ枯れの抑制と再生に尽力してきた中田教授。現在は行政や地元のNPO法人と連携しながら海岸林に適した樹種の選定と森林整備に力を注ぐ。

「常緑広葉樹を活用した混交林を造成することで、病害虫を含む被害にも広く対応でき、仮にクロマツが枯れたとしても他の樹種で防災機能を担うことが期待できます。さらに、近年の海岸林は緑を感じられる憩いの場であったり、環境教育の機能も有しており、そういった観点から多くの樹種が生育することは効果的です。現状の海岸林を守りつつ、将来を見据えた多様性の高い海岸林を今から築いていき、次の世代につないでいきたいです」

枯れたクロマツ
様々な常緑広葉樹が生育する海岸林

海岸クロマツ林の再造成(新潟市西区)

新潟市内の海岸林で調査をする中田教授

海岸林整備の学生実習
海岸林の種子散布に貢献しているメジロの巣と卵

プロフィール

中田誠

農学部 教授

農学博士。専門は森林生態学。森林の生物とそれを取り巻く環境との関係を、フィールド調査を基盤に多様な視点から研究。

研究者総覧

素顔

海底古木の研究者としての一面も。新潟県中越沖地震で、震源地に近い出雲崎沖の海底から発見された縄文時代の古木。本学災害・復興科学研究所の卜部厚志教授との共同研究で、妙高山の噴火を起源とする可能性が高いことを明らかにした。

引き揚げられた古木が積んである出雲崎漁港(2007年7月)
火砕流に巻き込まれたと考えられる木材(出雲崎漁港で2007年9月に回収)

新潟大学駅南キャンパスときめいとでの展示(2013年11月)

※記事の内容、プロフィール等は2022年5月当時のものです。

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掲載誌

この記事は、新潟大学季刊広報誌「六花」第40号にも掲載されています。

新潟大学季刊広報誌「六花」

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