ヒト生体情報から巧みな身体運動の仕組みを解き明かす

教員コラム(若手研究者) 2026.07.31
国正陽子 教育学部/工学部 助教

私たちヒトの身体運動はどのようにして起こっているのでしょうか?脳からの指令によって伝わってきた電気信号は筋に伝わり、筋で力が生まれます。そして、その筋で発揮された力が腱を介して骨に伝わることで関節は動きます。最終的に関節で発揮された力が回転力として地面、物体、水などに働くことによって、私たちは「歩く・走る・跳ぶ・投げる・泳ぐ」といった身体運動を可能にしています。

ヒトの身体運動能力は最終的に関節で発揮される力やその力を発揮するために必要なエネルギーによって決まります。そして、これらは骨格・筋・腱の構造や機能の巧みな調整によってなされています。例えば、ヒトの走運動中の力発揮において重要な腓腹筋(ふくらはぎの筋)は羽状筋と呼ばれる筋構造をしており、筋線維が腱に対して斜めに付着することによって、筋内の筋線維の数を増やし、筋全体として発揮できる力を効率的に増やしています。また、腓腹筋にはとても長いアキレス腱が付着しており、エネルギーを消費しないアキレス腱と筋が巧みに相互作用にすることによって、私たちは筋の力発揮効率を高めて歩行や走行を行っています。このような身体の仕組みを解き明かすことは非常に興味深く、我々の身体が良くできていることを実感させてくれます。

太陽フレアの写真羽状筋の一つである腓腹筋(ふくらはぎの筋)の超音波エコー画像
黄色の線は筋線維で束である「筋束」を示す。筋線維が腱(赤線)に対して斜めに付着することによって、
筋内の筋線維の数を増やし、筋全体として発揮できる力を効率的に増やしている。

私がこれまでに取り組んできた研究の一部を紹介したいと思います。皆さんは、夏季オリンピックや陸上競技の世界大会を観たことはありますか? 陸上中長距離種目(マラソンや1500m走等)に着目すると、メダルを獲得している選手のほとんどが東アフリカ(ケニアやエチオピアなど)出身の選手であることに気づくと思います。なぜ、ある特定の地域の選手がある特定の種目で独占的に活躍しているのでしょうか。なぜ、東アフリカの選手はあれほど驚異的な陸上中長距離走能力を発揮しているのでしょうか。我々の研究グループでは、彼らの下腿(膝から下)の筋・腱・骨格構造と機能に着目し、超音波エコーや表面筋電図などによって生体情報を直接測定することで、その秘密を解き明かそうとしました。調査をした結果、東アフリカのランナーは特徴的な短く小さいふくらはぎの筋、そして長いアキレス腱に加え、長いアキレス腱モーメントアームを有しており、さらに走運動中はこれらの筋腱・骨格の特徴を生かし、筋の活動量を抑えながらも効果的な関節回転力を発揮して運動をしていることが明らかになりました。東アフリカの陸上中長距離選手が筋腱・骨格の構造・機能的特徴を活かして効率的な関節での力発揮を可能にし、中長距離走能力を高めていることを世界で初めて明らかにした研究です(関連論文:Kunimasa et al. Scand J Med Sci Sports. 2014; Sano et al. Eur J Appl Physiol. 2015; Kunimasa et al. Acta Physiol. 2022; Kunimasa et al. J Physiol Anthropol. 2023)。

ヒト生体を対象に身体運動の研究をするようになって、ヒトの生体はとても不思議で上手くできているなと感じています。これらのヒトの身体運動の仕組みを解き明かすことは、我々の身体運動能力の限界を突破できるだけでなく、日常の運動の効率を高め、怪我や病気から運動能力や体力を回復させることに繋がり、私たちの日常を豊かにできると考えています。今後もヒトの巧みな身体運動の仕組みを解き明かし、我々の生活を豊かにする知見を生み出したいと思っています。

プロフィール

国正陽子

教育学部/工学部 助教

博士(スポーツ科学)。専門はバイオメカニクス。大阪体育大学大学院スポーツ科学研究科(博士課程)、Aix-Marseille University博士研究員を経て、2022年7月より新潟大学人文社会科学系(教育学部)、工学部助教。新潟大学若手教員スイングバイ・プログラム採用教員(2期)。

研究者総覧

※記事の内容、プロフィール等は2026年7月時点のものです。

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