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最も硬い物質「ダイヤモンド」が極低温で軟らかくなる ~鍵を握るのは電子!〜

2025年06月18日 水曜日 研究成果

ポイント

  • 人工ダイヤモンド単結晶を絶対零度付近(~0.02ケルビン)まで冷却し、弾性率を精密測定。
  • 種類の異なる3種類のダイヤモンド全てが、1ケルビン以下の極低温領域で軟らかくなる現象を発見。
  • 軟らかさの起源はppb(10億分の1)の濃度で存在する未解明の格子欠陥であることを示唆。

概要

北海道大学大学院理学研究院の柳澤達也教授を中心とし、ドレスデン強磁場研究所・ドレスデン工科大学(ドイツ)、京都大学、本学が協働した国際研究グループは、人工ダイヤモンドが極低温で軟らかくなる新現象を発見しました。この結果は、ダイヤモンド内に未知の量子状態が存在することを示唆しており、量子センサや量子計算といった次世代技術への応用が期待されます。
ダイヤモンドはその美しさだけでなく、硬度や熱伝導率の高さなどの物理的性質から多方面で応用されています。中でも欠陥や不純物の少ない人工ダイヤモンドは、宝飾用用途や機械分野への応用だけでなく、量子情報分野のデバイス基板として期待されており、特にダイヤモンド中の原子空孔(原子の抜けた穴)と窒素からなるNV中心と呼ばれる格子欠陥は、常温動作が可能な量子情報処理や高精度の磁気センシングへの応用が期待されています。一方、それらのダイヤモンド中の量子状態の研究は、主に中性子や電子線を照射し意図的に欠陥を作ったダイヤモンドに対して電子スピン共鳴や光学実験の手法が用いられてきました。そのため、欠陥の少ない非照射ダイヤモンドが極低温で示す「弾性」つまり固体の硬さや柔らかさに関しては、これまで詳しく調べられていませんでした。
研究グループは、育成方法の異なる3種類の未照射人工ダイヤモンドを用い、超音波を用いて弾性定数(モノの硬さの指標)を精密に測定しました。その結果、1ケルビン(摂氏マイナス272度)以下の極低温において、温度低下と共に全ての試料で弾性定数が1万分の1程度減少する振る舞いを世界で初めて確認しました。この結果は、ダイヤモンド内に「電気四極子自由度(T2対称性)」を持つ量子基底状態が存在することを示しています。しかしながら、これまで知られている窒素(N)やホウ素(B)関連の原子空孔を伴う欠陥の量子状態からはこの現象を説明できないため、その起源となる具体的な欠陥の種類は未だ特定に至っていません。今後の系統的な研究により、この未解明の量子状態の理解が進めば、人工ダイヤモンド単結晶を用いた量子情報デバイスのエラー軽減に向けた足掛かりとなり、将来的には、量子コンピュータや、量子センサ等の性能向上に寄与することが期待されます。
なお、本研究成果は、日本物理学会欧文誌Journal of Physical Society of Japan(Letters)誌(オンライン版)に2025年6月11日(水)にオープンアクセスで掲載されました。


ダイヤモンドの結晶構造と様々な原子空孔

研究内容の詳細

最も硬い物質「ダイヤモンド」が極低温で軟らかくなる ~鍵を握るのは電子!〜(PDF:1MB)

論文情報

【掲載誌】J. Phys. Soc. Jpn.(Letters)(日本物理学会欧文誌)
【論文タイトル】Elastic Softening in Synthetic Diamonds(人工ダイヤモンドの弾性ソフト化)
【著者】柳澤達也1、日比野瑠央1、日髙宏之1、網塚 浩1、田嶌俊之2、赤津光洋3、根本祐一4、Sergei Zherlitsyn5、Joachim Wosnitza5,6(1北海道大学大学院理学研究院、2京都大学大学院工学研究科、3本学理学部理学科物理学プログラム、4本学大学院自然科学研究科、5ヘルムホルツ研究センタードレスデン強磁場研究所、6ドレスデン工科大学)
【doi】10.7566/JPSJ.94.073602

本件に関するお問い合わせ先

広報事務室
E-mail pr-office@adm.niigata-u.ac.jp

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