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脳血管障害のメカニズムの一端を解明!

研究

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脳研究所神経内科(生命科学リソース研究センター)の小野寺理准教授を中心とする研究グループ(原賢寿医師,志賀篤大学院生ら)は,遺伝性脳血管障害の原因遺伝子とそのメカニズムの一端を解明しました。本研究成果は亀田総合病院(千葉県鴨川市),自治医科大学,国立精神・神経センター,日本大学,信州大学,東京大学等との共同研究です。 この研究成果は,米国の医学系学術誌「The NewEngland Journal of Medicine」2009.4.23号に掲載されました。

本研究成果のポイント

  • 遺伝性脳血管障害の原因遺伝子を解明
  • その遺伝子の異常により起こるメカニズムを解明
  • TGF-βシグナルの亢進が一部の脳血管障害の背景にあることを明らかにした
  • 非遺伝性の脳血管障害のメカニズムの解明,治療,予防に繋がることが期待される

詳細

脳の白質*1を中心とする血管障害は,脳梗塞や,認知症を引き起こすと考えられています。MRIの普及で多くの患者さんにこの病変が見つかっていますが,そのメカニズムはよくわかっていませんでした。脳の白質は,特別な仕組みを持った小さな血管で栄養が補給されています。
今回,遺伝性の病気で,若い頃からこの脳の小さな血管の障害を起こし,脳の白質に脳梗塞を起こす病気(CARASIL カラシル)の解析から,その原因遺伝子を初めて単離することに成功しました。
単離した原因遺伝子はHTRA1(エイチティーアールエーワン)という遺伝子と同定しました。
この遺伝子は,TGF-β(ティージーエフベータ)シグナル*2を抑制する働きがあります。
CARASILの患者さんでは,この遺伝子の働きが低下し,TGF-βシグナルが亢進していることを明らかにしました。

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本研究の成果としては,TGF-βシグナルの亢進が脳の小血管を中心とする脳血管障害を起こすことを示したことは大変意義があります。特に,脳の小血管 の血管障害のメカニズムの一端を解明したことは,この病気だけではなく,他の非遺伝性の脳の小血管障害のメカニズムの解明や,その治療,予防に役立つ薬の開発にも繋がることが期待されます。また,CARASILは,脱毛症,変形性脊椎症も伴うため,これらの病気の治療法の開発にも繋がることが期待されます。
本研究成果は,米国の医学雑誌『New England Journal of Medicine』(4月23日付け:日本時間4月23日)に原著論文として掲載されました

学術誌:『The New England Journal of Medicine』とは? (南江堂HPより)

195年以上に渡る歴史を有し,世界で最も権威のある週刊総合医学雑誌であり,医学界のトップジャーナルとして,国内外の医師・研究者から高い評価を受けています。
今日望みうる最高水準の科学研究が毎週発表される同誌は,ニュース番組や新聞紙上でいち早く同誌の記事が紹介されることも多く,掲載される医学研究論文は,医学界のみならず各種産業・株式市場といった多方面にも強い影響を与え続けています。
1年間の投稿原稿の総数は約3,600件にのぼりますが,そのうち掲載が認められるものは6%程度にすぎません。世界全体の総発行部数は,医学雑誌では最大の25万部以上で,医学専門誌および科学専門誌において,最も引用回数の多い雑誌とされています。
特に,今回の論文の形態は,original articleとよばれ,1誌には3編のみが載せられる非常に評価が高いものです。参考までに,日本人研究グループが,この形態で掲載された実績は,過去10年間で13編しかありません。
一般に引用回数を数値化したものとして使われるインパクトファクターは52.6 です。

*1 白質

脳では,神経細胞の細胞体は脳の表面に集まっていて,灰色に見えることから,灰白質(かいはくしつ)と呼ばれます。一方,内部の構造は,神経細胞の細胞 体から伸びた神経線維が主体で,白っぽく見えることから白質(はくしつ)と呼びます。いわゆる脳梗塞は皮質に栄養を与えている大きな血管で起こるものもあ りますし,この白質に栄養を与えている小さな血管で起こることもあります。小さな血管の脳梗塞は一つ一つは症状を出さなくても,数が増えると問題を起こし てくると考えられています。

*2 TGF-βシグナル

TGF-βとは細胞から分泌されるタンパク質で,他の細胞に情報を伝えるものの一つです。
TGF-βによって伝えられる情報をTGF-βシグナルといいます。このシグナルは細胞の増殖や,分化,死などを促します。特にがんや免疫との関連が注 目を集めています。このタンパク質の仲間はたくさん知られていて,骨を作る蛋白や,髪の分化を促す作用をもつタンパク質も知られています。