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新しい健康バイオマーカー としての「咀嚼能率」

2018年11月26日 月曜日 研究

 

医歯学系(大学院 医歯学総合研究科)小野高裕 教授

小野高裕 教授

医歯学系
(大学院 医歯学総合研究科)

時代が求める人の身体の評価指標にすべく、咀嚼能率を可視化し、健康状態との関係を研究

小野教授の専門は歯科補綴(ほてつ)学。歯の治療とはまた別の、入れ歯など歯の機能を補う人工物を研究・開発する分野である。その中で今、特に研究に勤しんでいるテーマが、咀嚼(そしゃく)能率。「咀嚼とは、食べ物を噛んで細かくし、唾液と混ぜて飲み込みやすい形にすること。難しい言葉に聞こえますけど、皆さんが毎日、食事のたびにやっていることですよね」という説明にまず納得。

「咀嚼能率」の分布図 視覚的に判定するスコアシート
食べ物は、塊のままより、細かくなればなるほど消化しやすい。その「咀嚼能率」の分布図(左)と視覚的に判定するスコアシート(右)。グミゼリーを30回噛んでもらい、その粉砕度=ゼリーの表面積がどれくらい増えたかを約1,500人の一般住民に測った結果をまとめた。

「日本人は、平均的に60代以降で歯が抜けてしまう人が多いと言われています。そこで人工的に歯を作り、また噛めるようにする――つまり、咀嚼という人間の大事な機能を回復させるのが僕らの仕事です。実際、病院に来る人はそれで困っておられるわけですよ。ところが、その歯が抜けてモノをうまく噛めないっていう患者さんが、正常な状態に対してどれくらい噛む機能が落ちているかを検査しないまま治療するケースがほとんどなんですよね。本来は患者さん一人ひとりで歯の抜け方とか症状が違うはずなのに」。患者の立場に立ったその疑問を解決する切り札が、“ 咀嚼能率” というわけだ。「2年前までいた大阪大学で、私の師匠が“ 咀嚼を測るシステム” をほぼ完成させたんです。それを新潟大学に持ってきて、患者さんの咀嚼能率を測りながら、どれだけ困っているかを数値で可視化する――まずそこから始めることで、その人の状態に本当に合った入れ歯を作ることができるし、装着後、症状が改善されたかどうかも確認できます。

さらに、この手法を応用する形で、咀嚼能率と健康状態の関係をずっと研究してきました。例えば今、メタボリックシンドローム―― “メタボ”が動脈硬化性疾患を予防するための疾患概念として認知されていますが、咀嚼能率もそのマーカーとして役に立つんじゃないかと、大阪の国立循環器病研究センターと共同で研究してきまして…このたび、約1,800人の研究データから、やはり咀嚼能率の低い人の方がメタボになるリスクが高いという結果が出てきたんです。それを論文として発表しましたが、こういう風にきちっとした数値で咀嚼能率を測り、それとメタボとの関係がちゃんと語られるのは世界で初めてなので、注目してほしいですね」
よく、元気なお年寄りはご飯もちゃんと噛んで食べている人だと言われるが、おいしいものをゆっくり食べて、いい形で咀嚼することが長生きにつながると医学的にも証明されれば、とても素晴らしいこと。「病院で臨床データを集めていく。そして(病院ではない)他の施設と一緒に疫学的なデータを集めていく。その二本柱で、咀嚼能率のバイオマーカーとしての意義をどんどん明らかにしていけると思っています。きっと3年後くらいに、またおもしろい結果が出せると思いますよ」と微笑む小野教授。結果が人間の日々の暮らしに直結する研究として、今後の展開が楽しみな研究だ。
患者さんが噛んだグミゼリーをカップに入れるだけで、どれだけ表面積が増えたかを測る専用機が新潟大学にはある
患者さんが噛んだグミゼリーをカップに入れるだけで、
どれだけ表面積が増えたかを測る専用機が新潟大学にはある
六花 第18号(2016.AUTUMN)掲載

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