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がん放射線治療計画のためのデュアルエナジーCT

研究

 

医歯学系(医学部 保健学科 放射線技術科学)齋藤 正敏 教授

齋藤 正敏 教授

医歯学系(医学部 保健学科 放射線技術科学)

Profile

博士(理学)。
専門は医用物理学。CTを中心としたX線イメージング技術に関する基礎研究を進める。

正確かつシンプルな電子密度測定法の発見X線から粒子線治療へと展開

放射線治療は、手術、薬物療法と並ぶ「がんの3大療法」のひとつ。近年、IGRT(画像誘導放射線治療)に代表されるビーム照射技術の高度化は目覚しく、また、がん病巣部に最適な線量を投与する治療計画のための計算法も飛躍的な進歩を遂げている。
一方で、その線量計算の礎となる人体データ「電子密度」の測定法は30年以上前から基本的に変わらず、患者のCT画像の画素値(CT値)から電子密度を推定している。
「しかし、CT値と電子密度が一対一に対応しないことに起因した“線量分布の誤差” は、治療計画上の懸案事項のひとつでした」と齋藤正敏教授。
「私はこの長年の問題を解決すべく、デュアルエナジーCTを利用した新しい電子密度測定法を研究しています。従来のCT はX 線のエネルギーを固定して撮影しますが、デュアルエナジーCTでは、文字通り2種類のエネルギーを使い、X線と原子との反応(光電吸収やコンプトン散乱)を変化させて撮影します。
「エネルギーを変えて電子密度を知る」という発想は1970年代からあり、これまで数多くのアルゴリズムが提案されてきたという。しかし、それらはいずれも計算が複雑で精度も不十分なものだった。
「こうした中で私は、“デュアルエナジーのCT値を引き算する” という単純なプロセスで電子密度が正確に求められることを見出しました。その測定精度は、今日臨床で使われている解析アルゴリズムより高いことが、欧州の研究グループによって報告されています」

【図1】
がんの放射線治療計画において線量分布を計算するためには体内の電子密度情報が必要
がんの放射線治療計画において線量分布を計算するためには体内の電子密度情報が必要
【図2】
デュアルエナジーCTを利用した新しい体内電子密度測定法の概略
デュアルエナジーCTを利用した新しい体内電子密度測定法の概略
【図3】
従来法との性能比較。デュアルエナジーCTでは条件が変わっても線量分布が安定・正確に得られる
従来法との性能比較。デュアルエナジーCTでは条件が変わっても線量分布が安定・正確に得られる

研究は現在、「X線治療」から「粒子線治療」へと展開している。陽子や重イオンを使う粒子線治療は、X線よりもがん病巣に線量を集中して照射できる治療法として注目を集めている。
「我々の最新の研究成果をまとめた論文が『Medical Physics』(医学物理分野ではトップレベルの国際誌)に近く掲載されます」
この齋藤教授らの論文に査読者から寄せられたコメントが下記である。
“The method presented by the authors is arguably the most elegant in the literature”
「つまり“最も単純なものが最良である”ということ。このメッセージを常に意識して私たちは研究に取り組んでいます」
 

六花 第21号(2017.SUMMER)掲載

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