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田んぼダムによる洪水緩和

研究

 

吉川 夏樹 准教授

自然科学系(農学部)

Profile

博士(農学)。
専門は農業土木、農業水利学。シミュレーション技術
を駆使し、農業と水に関する研究を行う。

自然科学系(農学部)吉川 夏樹 准教授

流域と一体になった新たな治水対策 その制度のあり方についても研究

シミュレーション技術や地理情報システムを駆使し、農業と水に関する課題の解決策を見出すために研究を進める吉川准教授。取り組むテーマのひとつが田んぼダムによる水害対策だ。
「地球温暖化や都市化の進展、農地面積の減少により水害の発生確率は増加しています。しかし、ダムや堤防建設などの治水事業には莫大なお金と時間がかかります。そこで流域と一体になった新たな治水対策として田んぼダムを提唱しています。田んぼダムとは、水田落水口の断面積を縮小し、大雨時に水田からのピーク流出量を抑制する仕組み。雨水を田んぼに貯留することで、排水路の流量を抑え、洪水被害を軽減することができます」
田んぼダムは面的に広がる水田を利用するので、大きな効果が期待される。また、落水量調節装置は1個あたり数百~数千円で製作でき、コストが小さいことも特長だ。
「設置が非常に簡単なので高い即効性があります。2016年現在、新潟県内の水田では、約12,000ヘクタールで取り組まれており、県外でも普及しつつあります。
平成23年の新潟・福島豪雨では白根地区で約167万㎥の水量を調節しました。見附市の刈谷田川遊水地の貯水量が235万㎥ですから、十分な成果だと言えます」
一方で、その普及には課題が多い。設置や維持を支援する仕組み作りが重要と指摘する。
「田んぼダム自体は農家に大きなメリットはありません。そのため、取り組みの普及には農家の負担軽減や行政による支援が必要だと思います。私たちは開発や効果の検証のほか、制度のあり方についても提案しています」
水害対策だけでなく、国益の点からも農地保全は重要と語る。
「今後、世界人口はどんどん増えていきますが、農地面積には限りがあります。近い将来に水と食料が高くなる時代がやってきます。水田は5年放置すると使えなくなるので、農地資源を管理しておく必要がある。田んぼダムは将来の食料安全保障の意味からも効果的だと言えます」

 

六花 第23号(2018.WINTER)掲載

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