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子どもと拡張現実技術(AR)

季刊広報誌「六花」

白井 述 准教授

人文学部

Profile

博士(心理学)。専門は知覚心理学、発達心理学。
視覚の発達を、赤ちゃんから成人まで、幅広い年齢層を対象に研究

人文学部 白井 述 准教授

ARによる表現が子どもに与える影響を検証 年齢層に合わせたコンテンツ開発の必要性を提起

実際の世界の映像をリアルタイムで加工し、人工的な情報を追加する拡張現実技術(AR)が近年急速に普及している。白井述准教授は、ARによる映像表現が子どもの行動に影響する様子を実験的な手法によって初めて示した。

「情報通信技術の進歩によって、現実と人工的な情報が重なる世界を身近に感じられるようになりました。子どもの視覚認識能力が、人工的な情報をどのようにとらえるのか考えることは、今後、重要になってくると思います」

実験には5歳から10歳までの子ども48人が参加。実験室を障害物によって2つのエリア(エリア1・エリア2)に分け、両エリアを行き来するための通路を2つ設けた。子どもがエリア1 に入ると「この部屋には目に見えないお友達、(ARキャラクターの)ジョージくんがいます」と説明。タブレットを使ってジョージくんが通路のどちらか一方に立つ様子を観察させた。
その後、簡単なゲームに取り組ませ、ゲーム終了後、「もう一方のエリア(エリア2)にプレゼントがある」とエリア2に行くように促し、どちらの通路を通ってエリア2に移動するかを記録した。実験の結果、参加した子どもの約7割にあたる34人はARキャラクターが「立っていなかった」通路を選択。さらに同様の実験を大学生24人に対して行ったところ、「AR キャラクターが立っていない」通路を選んだのは14人。子どもに比べて大きな差は出なかった。これは、AR によるキャラクターの表現が、子どもの行動に影響を与えうることを示唆しているという。

 

実験で使ったARキャラクターの写真
実験で使ったARキャラクターの写真

「子どもはARキャラクターのいた通路を、キャラクターが消えた後でもぶつかるのを避けるかのように通りませんでした。ARコンテンツは、子ども向けにはマイルドな表現にするなど、年齢層に合わせて開発していく必要があると思います。しかし、私自身はARをネガティブには捉えていません。子どもの影響の受けやすさを生かし、コミュニケーションシステムや教育分野での応用が期待できると思います」

 

実際の実験の様子
実際の実験の様子
子ども(5~10歳児)を対象とした実験手続きの概要
子ども(5~10歳児)を対象とした実験手続きの概要

今後は工学系分野と共同でAR 技術を活かした研究を行う。「心理学とは人の心を解読するものではなく、人の心と行動を科学的に解明するもの。中でも一番科学的に理解が進んでいるのが視覚研究です。人間の生きる環境がダイナミックに変わりつつある時代に“モノを見るとはどういうことか” をテーマに研究を進めていきます」

 

六花 第35号(2020.WINTER)掲載

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