植物の再生と防御のスイッチ-転写因子WINDは道管再形成や自然免疫も制御する-
本学理学部の池内桃子准教授、理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター細胞機能研究チームの岩瀬哲上級研究員、杉本慶子チームリーダー(東京大学大学院理学系研究科教授)、植物免疫研究グループのアヌポン・ラオハビシット研究員、白須賢グループリーダー(東京大学大学院理学系研究科教授)、神戸大学大学院理学研究科の近藤侑貴准教授、帝京大学理工学部の朝比奈雅志准教授、京都先端科学大学バイオ環境学部の福田裕穂教授らの共同研究グループは、転写因子(注1)WINDが傷口のカルス化(注2)だけでなく、道管(注3)の再形成や病原菌への抵抗性獲得に重要な働きをしていることを発見しました。
本研究成果は、組織培養技術を用いた増産や品種改良、接ぎ木(注4)の効率化、病害抵抗性付与など、植物による持続的な食料・バイオマスの生産に貢献する技術開発につながると期待できます。
植物は傷がつくと、組織の再生や防御応答などさまざまな生理反応を起こしますが、これらの反応を統合的に活性化させる分子の存在は知られていませんでした。
転写因子WINDの一つであるWIND1は、傷害ストレスによるカルス(注2)形成や茎葉の再生を促進することが分かっています。今回、共同研究グループはシロイヌナズナ(注5)を用いて、WIND1によって発現量が増加する遺伝子を網羅的に調べました。その結果、再生に関わる遺伝子だけでなく、道管の形成や防御応答に関与する遺伝子も発現が上昇することが分かりました。また、WIND1や他のWIND(WIND2~4)の機能を抑えると、接ぎ木における道管の再形成や病原菌に対する抵抗性が弱まったことから、実際にWINDが傷の修復や防御応答を統合的に制御する因子であることが明らかになりました。
本研究は、科学雑誌『New Phytologist』のオンライン版(8月10日付)に掲載されました。
【用語解説】
(注1)転写因子:
特定のDNA配列に結合し、遺伝子発現を制御するタンパク質の一群。遺伝子発現のスイッチに例えられ、遺伝子発現を促進するものを転写活性化因子、抑えるものを転写抑制因子と呼ぶ。
(注2)カルス化、カルス:
カルスは植物が傷害部位に形成する細胞塊を元来示す言葉であり、癒傷組織とも呼ばれる。現在では、広く組織培養条件下で組織片から生じる細胞塊を示す言葉として使われている。カルスが生じることをカルス化と呼ぶ。医学分野では、骨折の後に生じる小さな骨断片や、皮膚にできる硬い組織、胼胝(たこ)もカルスと呼ばれる。
(注3)道管、維管束:
植物は、水や光合成でつくった糖などの栄養を運ぶための通道組織を持っている。水や無機養分を運ぶための管が道管であり、栄養を運ぶための管が篩管である。維管束は多くの道管や篩管などが集まって束になっている部分を指す。
(注4)接ぎ木:
植物体を切断面で接着させる方法で、農業的にも植物の基礎科学でも古くから用いられている。例えば、病害虫に強い根を持つ近縁種を台木とし、良い実のなる品種を穂木として接ぐことで、病害虫に強く良い実のなる個体を作ることができる。接ぎ木が起こる断面ではカルスの形成が頻繁に見られ、カルスの質が接ぎの良し悪しに影響することが知られている。接ぎ木面では、台木と穂木の組織同士の道管や篩管の再結合が起こる。
(注5)シロイヌナズナ:
アブラナ科の植物。2000年に全ゲノム配列が解読されており、植物が持つ環境応答機能や個々の遺伝子機能を調べるために、世界中で研究材料に用いられている。
研究内容の詳細
植物の再生と防御のスイッチ-転写因子WINDは道管再形成や自然免疫も制御する-(PDF:2.6MB)
論文情報
【掲載誌】New Phytologist
【論文タイトル】WIND transcription factors orchestrate wound-induced callus formation, vascular reconnection and defense response in Arabidopsis
【著者】Akira Iwase, Yuki Kondo, Anuphon Laohavisit, Arika Takebayashi, Momoko Ikeuchi, Keita Matsuoka, Masashi Asahina, Nobutaka Mitsuda, Ken Shirasu, Hiroo Fukuda, Keiko Sugimoto
【doi】10.1111/nph.17594
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