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ドーパミン神経細胞の細胞死を抑制する新たな分子を発見

2021年11月25日 木曜日 研究成果

パーキンソン病(注1)は、脳の黒質(注2)に存在するドーパミン作動性神経細胞(注3)の細胞死による運動機能の低下を主症状とする神経変性疾患です。ドーパミンは神経伝達物質ですが、ドーパミン作動性神経細胞に細胞死を引き起こし、この細胞死がパーキンソン病の発症に関与していることが知られています。
本学大学院医歯学総合研究科ウイルス学分野の山後淳也(大学院生)、垣花太一助教、藤井雅寛教授らの研究グループは、USP10蛋白質(注4)がドーパミン作動性神経細胞の細胞死を抑制することを発見しました。USP10の発現を低下させた神経細胞では、ドーパミンによる活性酸素の産生が増加し、活性酸素に依存した細胞死が誘導されました。USP10は、抗酸化蛋白質の転写活性化因子であるNrf2蛋白質(注5)を活性化することで、神経細胞死を抑制しました。その際、USP10は、リン酸化されたp62蛋白質(注6)の量を増やし、このリン酸化されたp62がNrf2を活性化しました。USP10はパーキンソン病治療薬の有望な標的です。

本研究成果のポイント

  • USP10はドーパミン神経細胞の細胞死を抑制する。
  • USP10は抗酸化遺伝子の発現を誘導し、活性酸素量を減少させ、ドーパミン神経細胞の細胞死を抑制する。
  • USP10はNrf2による抗酸化遺伝子の転写を活性化し、細胞死を抑制する。
  • USP10は、リン酸化されたp62の発現量を増加させ、Nrf2を活性化する。

【用語解説】
(注1)パーキンソン病:パーキンソン病は、脳の黒質に存在するドーパミン作動性神経細胞の細胞死による、運動機能の低下を主症状とする神経変性疾患です。パーキンソン病の主な運動症状としては、1)手足や顎の震え(振戦)、2)手足の筋肉のこわばり(筋固縮)、3)動きが鈍くなる、または動かなくなる(無動・孤動)、4)体のバランスが崩れたり、倒れそうになったりする(姿勢保持障害)などが知られています。
(注2)黒質(こくしつ):黒質は、中脳の基底核にある神経核の一つです。黒質にはドーパミン作動性神経細胞が多く存在します。ヒトの黒質は、メラニン色素を含む神経細胞が数多く存在するため、黒く見えます。
(注3)ドーパミン作動性神経細胞:ドーパミンを放出する神経細胞です。
(注4)USP10蛋白質:ユビキチンは76個のアミノ酸からなる蛋白質です。USP10は、脱ユビキチン化酵素活性を持つ蛋白質の一つで、蛋白質に付加されたユビキチンを除去(脱ユビキチン化)します。ヒトでは100種類以上の脱ユビキチン化酵素活性を持つ蛋白質が発見されています。
(注5)Nrf2蛋白質:HO-1やNQO1などの抗酸化遺伝子の発現を誘導する転写因子です。Nrf2は、定常状態では細胞質内に存在し、Keap1と結合してユビキチン化され、プロテアソームで分解されます。細胞がストレスに曝されると、Keap1がNrf2から解離し、Nrf2の分解が止まり、Nrf2は細胞質から核に移動して、抗酸化遺伝子(HO-1、NQO1など)の転写を活性化します。
(注6)p62蛋白質:p62蛋白質は、Nrf2の活性化因子です。酸化剤などのストレスにさらされると、p62の351番目のセリン残基がリン酸化されます。このリン酸化されたp62はKeap1と結合し、Keap1をNrf2から遊離させ、Nrf2を活性化します。

研究内容の詳細

ドーパミン神経細胞の細胞死を抑制する新たな分子を発見(PDF:362KB)

論文情報

【掲載誌】Journal of Biological Chemistry
【論文タイトル】USP10 inhibits the dopamine-induced reactive oxygen species-dependent apoptosis of neuronal cells by stimulating the antioxidant Nrf2 activity
【著者】Junya Sango, Taichi Kakihana, Masahiko Takahashi, Yoshinori Katsuragi, Sergei Anisimov, Masaaki Komatsu, Masahiro Fujii
【doi】10.1016/j.jbc.2021.101448

本件に関するお問い合わせ先

広報室
E-mail pr-office@adm.niigata-u.ac.jp

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