このページの本文へ移動
  1. ホーム
  2. ニュース
  3. 変異型FUS蛋白質が細胞質顆粒へ移行する分子機構とその移行を阻害する低分子化合物を発見-ALSを含む神経変性疾患の病態解明と新たな創薬に期待-

変異型FUS蛋白質が細胞質顆粒へ移行する分子機構とその移行を阻害する低分子化合物を発見-ALSを含む神経変性疾患の病態解明と新たな創薬に期待-

2022年12月20日 火曜日 研究成果

本学大学院医歯学総合研究科脳機能形態学分野の矢野真人准教授、武田薬品工業株式会社の野上真宏主任研究員、慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授らの共同研究グループは、産学連携共同研究の一環である武田薬品工業株式会社湘南インキュベーションラボプロジェクト(注1)において、家族性筋萎縮性側索硬化(ALS)(注2)の原因遺伝子産物である変異型FUS蛋白質(注3)の細胞質ストレス顆粒(注4)への移行がDNA-PK(注5)に依存すること、及びFUS蛋白質のストレス顆粒への移行を阻害する低分子化合物23種類の同定に成功しました。
ALSは筋萎縮と筋力低下を主徴とした運動ニューロンが選択的に侵される進行性の神経変性疾患で、現時点では有効な治療法が存在しないいわゆる指定難病です。本研究グループは、蛍光蛋白質を付加した野生型及び家族性ALSの変異を有する変異型FUSを安定発現させた細胞実験にて、DNA損傷時に起こる核小体及び細胞質顆粒へのDNA-PK依存性の相乗的なFUS蛋白質の移行性を見出しました。さらに、ストレス顆粒マーカー因子G3BP1の安定発現グリオーマ細胞株をコントロールとして、ストレス顆粒形成を阻害せずに、変異型FUSのストレス顆粒への移行を選択的に抑制する低分子化合物のスクリーニングを行いました。このスクリーニングにより、細胞防御性を維持しつつ、FUSの病態を抑制する化合物の同定をすることが可能になります。本スクリーニングで得られた化合物のいくつかは、内在性のFUS蛋白質においても同様の結果を得られることが確認されました。本研究成果は、FUSによる細胞内凝集体形成やALSを含む神経変性疾患における幅広い分子病態の解明、病態解析ツールの提供及び新たな創薬を含む治療法開発につながることが期待されます。本研究成果は、2022年12月20日に、「Frontiers in Molecular Neuroscience」のオンライン版に掲載されました。

本研究成果のポイント

  • FUS蛋白質がDNA-PK依存性にストレス顆粒に移行する機構を発見
  • 変異型FUS蛋白質がストレス顆粒へ移行するのを選択的に阻害する低分子化合物を同定
【用語解説】

(注1)武田薬品工業湘南インキュベーションラボプロジェクト
(注2)筋萎縮性側索硬化症(ALS: amyotrophic lateral sclerosis)
ALSは運動ニューロン選択的に侵される神経変性疾患であり、年間におよそ1万人に1〜2人の確率で発症するとされ、日本にも約1万人の患者がいるとされています。多くは家族歴のない孤発性ですが、約10%は遺伝性であり複数の変異遺伝子が同定されています。現在有効な治療法は少なく、治療法・治療薬開発が待ち望まれています。
(注3)FUS蛋白質
FUS遺伝子はALSの原因遺伝子の一つであり、FUS遺伝子からコードされるFUS蛋白質は遺伝子発現調節などを行う多機能蛋白質です。
(注4)細胞質ストレス顆粒
ストレス顆粒は、ストレス刺激に応答して一過性に形成される細胞内構造体であり、ストレスから細胞を防御する機構として考えられていますが、ALSでは異常にストレス顆粒が形成され、逆に細胞毒性を発揮してしまうと考えられています。
(注5)DNA-PK: DNA依存性タンパク質リン酸化酵素
核DNA依存性セリン/スレオニン蛋白質キナーゼの触媒ユニットで、PRKDC遺伝子にコードされる蛋白質です。DNA損傷チェックポイントに関与する蛋白質をリン酸化する酵素で、FUSもその基質としてALSを含む神経変性疾患の発症との関連が指摘されるLLPSの形成に深く関わります。

研究内容の詳細

変異型FUS蛋白質が細胞質顆粒へ移行する分子機構とその移行を阻害する低分子化合物を発見-ALSを含む神経変性疾患の病態解明と新たな創薬に期待-(PDF:0.9MB)

論文情報

【掲載誌】Frontiers in Molecular Neuroscience
【論文タイトル】DNA damage stress-induced translocation of mutant FUS proteins into cytosolic granules and screening for translocation inhibitors
【著者】Masahiro Nogami*#, Osamu Sano#, Keiko Adachi-Tominari, Yoshika Hayakawa-Yano, Takako Furukawa, Hidehisa Iwata, Kazuhiro Ogi, Hideyuki Okano and Masato Yano*#
*co-corresponding authors #co-first authors
【doi】10.3389/fnmol.2022.953365

本件に関するお問い合わせ先

広報室
E-mail pr-office@adm.niigata-u.ac.jp

他のニュースも読む