このページの本文へ移動
  1. ホーム
  2. ニュース
  3. 窒素と重水素は宇宙のどこにあるか?-若い大質量星の赤外線観測が明らかにした、シアネートイオンと有機物中の重水素-

窒素と重水素は宇宙のどこにあるか?-若い大質量星の赤外線観測が明らかにした、シアネートイオンと有機物中の重水素-

2022年12月26日 月曜日 研究成果

発表のポイント

  • 日本の赤外線衛星「あかり」による赤外線観測データから、低温環境下で窒素を含む分子が生成される化学過程に紫外線が関与していることと、重水素が星間空間では有機物に取り込まれている観測的証拠を初めて得た。
  • これまで観測例の少なかった若い大質量星周囲の紫外線が強くかつ密度の高い領域の赤外線スペクトルデータの解析を行い、初めて低温環境下での窒素を含む物質と重水素を取り込んだ有機物の特徴を捉えることに成功した。
  • 重水素の宇宙空間での存在形態の解明は、宇宙における物質進化に関わる重要な課題の解決に大きな一歩となり、現在観測中のJames Webb Space Telescope(JWST)での追観測で大きく発展することが期待される。

発表概要

宇宙空間の低温環境下(絶対温度20K以下)で窒素が生命体の重要な構成要素であるアミノ酸のような複雑な分子に成長していく化学過程は、まだ十分に理解が得られていない大きな課題である。また重水素は宇宙における物質進化の重要な指標とされているが、宇宙空間内ではかなりの量の重水素の存在形態が不明で、未検出のままである。
東京大学大学院理学系研究科名誉教授/明星大学理工学部総合理工学科常勤教授の尾中敬、東京大学大学院理学系研究科助教の左近樹と本学自然科学系(理学部・大学院自然科学研究科)准教授の下西隆は、日本の赤外線衛星「あかり」で取得した若い大質量星の周りの近赤外線(注1)分光スペクトルを詳細に解析し、低温環境下で窒素を含むシアネートイオン(OCN)と考えられる物質(注2)の存在量が紫外線強度とよく相関していることを明らかにした。このことは、低温環境下で窒素を含むアミノ酸のような分子が生成される化学過程の初期段階で、紫外線が重要な役割を果たしていることを示唆する。また、星間空間に豊富に存在する多環式芳香族炭化水素(PAH)(注3)を含む有機物に重水素が取り込まれていることを示す証拠を初めて得、有機物が重水素の隠れ家である可能性を明確に示した。
本研究成果は、2022年12月23日(米国東部時間)に米国天文学会誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

【用語解説】

(注1)近赤外線
ここでは赤外線衛星「あかり」が観測した2.5–5ミクロンの波長帯を示す。この波長帯の感度の良い分光データはこれまで赤外線衛星「あかり」だけにより取得されていたが、現在稼働中のJWSTは「あかり」をしのぐ感度を備えており、本研究成果を大きく発展させることが期待される。

(注2)シアネートイオン(OCN
低温環境下の天体には4.62ミクロンを中心に幅の広い(幅0.06ミクロン)吸収バンドが観測されている。発見当時起源がわからなかったため、特定できない元素とCN結合を含む物質を表す化合物XCNによる吸収バンドと呼ばれていたが、現在では実験室での合成実験から、シアネートイオンによる吸収と同定されている。

(注3)多環式芳香族炭化水素(PAH)
Polycyclic Aromatic Hydrocarbonの略で、ベンゼン環が複数連なり、周囲は水素で覆われた有機物質の総称である。一番小さなものはベンゼンである。3.3ミクロンから17ミクロンにかけて観測される複数の輝線バンドを担うと考えられている。最近の電波観測の高度なデータ解析により、分子雲中で窒素を含む小さなPAHが検出されている。

研究内容の詳細

窒素と重水素は宇宙のどこにあるか?-若い大質量星の赤外線観測が明らかにした、シアネートイオンと有機物中の重水素-(PDF:0.5MB)

論文情報

【掲載誌】The Astrophysical Journal
【論文タイトル】Near-Infrared spectroscopy of a massive young stellar object in the direction toward the Galactic Center: XCN and aromatic C–D features
【著者】Takashi Onaka*, Itsuki Sakon, and Takashi Shimonishi *責任著者
【doi】10.3847/1538-4357/ac9b15

本件に関するお問い合わせ先

広報室
E-mail pr-office@adm.niigata-u.ac.jp

他のニュースも読む