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豪雪をもたらす線状の降雪帯、JPCZの構造とメカニズムを日本海洋上観測により明らかにした

2022年12月26日 月曜日 研究成果
  • 日本に豪雪をもたらすJPCZ(日本海寒帯気団収束帯)*1)を横断し、1時間毎の洋上気球観測によってその実態を捉えることに成功。実態としては以下のようであった。
  • JPCZは、「大気の川」*2)のような構造を持つ。気流がJPCZに収束することに伴い、周囲の海面から蒸発した水蒸気がJPCZに集中する。JPCZが河川の本流に相当する。日本海の広い範囲の暖かい海面から蒸発した水蒸気がJPCZへ集まりそれが風下へ移動するさまは、たくさんの支流(branch)の水が本流に集まり、下流へと流れる「川」と同等。またJPCZは帯状に伸びることから、いわば「線状の降雪帯」。
  • 「支流」から「本流」に相当するJPCZに水蒸気が集中し、強い雪雲となり豪雪となる。集中量を降雪に換算すると7時間で1メートルの降雪に相当。この降雪量の約9割は支流からの水蒸気の集中がもたらす。
  • 「支流域」に相当する海域は、暖かい対馬暖流*3)。暖流の上に強風が吹き、大量の水蒸気が海から大気へ供給される。暖かい対馬暖流の影響でJPCZが維持される。
  • JPCZは、一旦発生すると持続する機構(self-sustaining mechanism)を持つ(詳細は「研究内容の詳細」図と本文参照)。
  • 気象庁気象研究所の数値シミュレーションでも、観測事例を概ね再現出来た。ただし気象衛星ひまわりから推定された日本海の海面水温は、我々が観測した水温よりも約2℃低いことからJPCZを過小評価していた可能性がある。

概要・研究の意義

日本の日本海側は世界でもまれに見る豪雪地域です。雪は雪国独特の文化を醸し出し、安定した水資源となりますが、豪雪被害も毎年のように繰り返されています。日本の豪雪のメカニズムを理解し、予測することは地球科学的にも重要であるだけでなく、文化の理解、交通や社会への影響の観点からも極めて重要です。豪雪が起こる理由の一つが暖かい日本海の存在と日本海上で発生するJPCZにともなう強い雪雲であることが気象衛星画像から大まかには知られています。また、近年地球温暖化にもかかわらず寒波は頻繁に来襲している一方で、日本海では海面水温は際だって上昇しているため、気温と水温の差が大きい傾向にあります。もし、この傾向が続くのであれば、今後もJPCZに伴う豪雪が頻発する可能性があります。しかしJPCZについては、その詳細な実態の直接観測を行った研究は2000年代前半以降なく、その構造は完全には解明されていません。我々研究チームは、水産大学校の練習船耕洋丸を用いてその実態を把握することを目的とした大気海洋同時移動観測を2022年1月下旬に実施しました。1時間毎の気球観測とそれと同期した海洋観測によってJPCZの実態とそれに及ぼす暖かい海洋の影響を捉えることに成功しました。この研究は、豪雪のさらなる解明と予測において新たな鍵となるとともに、地球温暖化の研究や防災などにも役立つことが期待できます。

研究代表者

三重大学大学院生物資源学研究科 立花義裕教授

本学の共同研究者

理学部 本田明治教授、大学院自然科学研究科博士前期課程 畑大地(大学院生)

用語解説

*1)JPCZ (Japan sea Polar air mass Convergence Zone:日本海寒帯気団収束帯)
シベリアからの寒波が日本に流れ込む際に、暖かい日本海の影響を受けて多数の筋状の雪雲が発生します。それら筋雲の中で、他の筋状の雲とは異なり、幅数十キロメートル程度の発達した帯状の雲域が朝鮮半島の付け根付近から日本列島にかけて長さ数百キロメートルにわたってしばしば発生します。これをJPCZと呼びます。JPCZが達した領域付近では、周囲と比較にならないほどの豪雪が発生します。

*2)大気の川
大量の水蒸気を含む気流の帯のことを大気の川(atmospheric rivers)と呼びます。よく知られている大気の川は、熱帯域の海上から中緯度の日本や北米に流れ、それが梅雨期の豪雨に寄与しているとされています。最近の研究では、北極海に流れる水蒸気の帯についても大気の川として議論を展開する論文が増えており、その概念や定義が地球全体に拡張されています。そのような世界的な研究背景からJPCZが大気の川の一種であることを本研究では提示しました。

*3)対馬暖流
対馬海峡から日本海に流入し、津軽海峡や宗谷海峡から太平洋やオホーツク海に抜けて流れる暖かい海流です。日本の南岸を流れる黒潮と比較すると、流量で約1/10、流速で約1/4の弱い流れで、黒潮のように連続した流れにはなっていません。

研究内容の詳細

豪雪をもたらす線状の降雪帯、JPCZの構造とメカニズムを日本海洋上観測により明らかにした(PDF:0.3MB)

論文情報

【掲載誌】Scientific Reports
【論文タイトル】High moisture confluence in Japan Sea polar air mass convergence zone captured by hourly radiosonde launches from a ship
【著者】立花義裕(三重大学教授)、本田明治(新潟大学教授)、西川はつみ(東京大学大気海洋研究所特任研究員)、川瀬宏明(気象庁気象研究所主任研究官)、山中晴名(三重大学大学院生)、畑大地(新潟大学大学院生)、柏野祐二(水産大学校教授)
【doi】10.1038/s41598-022-23371-x

本件に関するお問い合わせ先

広報室
E-mail pr-office@adm.niigata-u.ac.jp

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