卵巣成熟奇形腫から発生したがんにおける強い腫瘍内不均一性とAPOBECシグネチャーの関与を解明-がん化のメカニズムや治療抵抗性の機序解明につながる可能性-
本学大学院医歯学総合研究科産科婦人科分野の吉原弘祐教授、県立がんセンター新潟病院婦人科の田村亮医長(本学大学院医歯学総合研究科客員研究員)、佐々木研究所腫瘍ゲノム研究部の中岡博史部長らの研究グループは、稀な腫瘍である、卵巣成熟奇形腫*1から発生した進行がん2症例に対して、原発巣や転移巣の複数箇所から腫瘍検体を採取し、網羅的な遺伝子解析を行うことで、本疾患において極めて強い腫瘍内不均一性と、APOBECシグネチャー*2の関与を明らかにしました。本研究成果はCancer Science誌に掲載されました。
本研究成果のポイント
- 卵巣成熟奇形腫から発生したがんが、①腫瘍内の組織所見の違いにより、全く異なる遺伝子異常を持つ細胞が混在する、極めて強い腫瘍内不均一性を有すること、②組織所見によらず、APOBECシグネチャーが多くをしめること、を明らかにしました。
- 強い腫瘍内不均一性は、治療抵抗性に関連している可能性があり、本疾患の治療の際に組織所見が異なる複数部位の評価をすることが重要と考えられます。
- 組織所見によらずAPOBECシグネチャーが多いことは、卵巣成熟奇形腫のがん化のメカニズムの解明や、発生したがんに対する新規治療戦略の構築につながる可能性があります。
【用語解説】
*1 卵巣成熟奇形腫とは
最も頻度が高い卵巣良性腫瘍であり、内部に様々な組織(皮脂、毛髪、歯牙、骨、軟骨、神経組織、甲状腺など)を認めます。1-2%と稀にがん化し、その多くが扁平上皮癌とされています。
*2 APOBECシグネチャーとは
APOBEC酵素群の活性化に由来する遺伝子変異のパターン
研究内容の詳細
卵巣成熟奇形腫から発生したがんにおける強い腫瘍内不均一性とAPOBECシグネチャーの関与を解明-がん化のメカニズムや治療抵抗性の機序解明につながる可能性-(PDF:0.8MB)
論文情報
【掲載誌】Cancer Science
【論文タイトル】Spatial genomic diversity associated with APOBEC mutagenesis in squamous cell carcinoma arising from ovarian teratoma
【著者】Ryo Tamura, Hirofumi Nakaoka, Nozomi Yachida, Haruka Ueda, Tatsuya Ishiguro, Teiichi Motoyama, Ituro Inoue, Takayuki Enomoto and Kosuke Yoshihara
【doi】10.1111/cas.15754
本件に関するお問い合わせ先
広報室
E-mail pr-office@adm.niigata-u.ac.jp
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