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細菌の病原性などに関わる糖鎖「OPG」の新規の生合成酵素を発見~新たな創薬ターゲットとなる可能性~

2023年10月16日 月曜日 研究成果

研究の要旨とポイント

  • 「OPG」は、グラム陰性菌の病原性や共生能にかかわる重要な糖鎖です。しかし、これまでOPGの生合成にはたらく酵素については解明が進んでいませんでした。
  • OPG生合成に必須と考えられる遺伝子opgG、opgDの産物がβ-1,2-グルカン分解酵素(β-1,2-グルカナーゼ)であることを見出しました。これらは、他の糖質加水分解酵素(GH)とはアミノ酸配列、構造ともに類似性を示さないことから、新規のGHファミリー(GH186)が創設されました。
  • GH186は、将来的には病原菌の病原性を阻害するための創薬ターゲットとなる可能性が考えられます。

OPG(Osmo-regulated Periplasmic Glucans)は、グラム陰性菌(*1)が細胞外やペリプラズム領域(*2)に合成する多糖です。これまでの研究から、この糖鎖が細菌の病原性や共生能に深くかかわることが知られています。

東京理科大学大学院創域理工学研究科生命生物科学専攻の元内省氏(博士後期課程1年)、同大学創域理工学部生命生物科学科の中島将博准教授、産業技術総合研究所人工知能研究センターの小林海渡氏、本学農学部農学科の中井博之准教授らの研究グループは、このOPGの糖鎖骨格合成に必須と考えられる遺伝子opgGおよびopgDの産物について解析し、これらがβ-1,2-グルカン(*3)を基質とする糖質加水分解酵素(Glycoside hydrolase:GH)であることを見出しました。

多くの病原菌において、遺伝子opgGの機能を欠失させるとOPGが合成されず、病原性が失われることが知られています。しかし、その産物であるタンパク質OpgGの生化学的機能については遺伝子が発見されてから30年以上もの間、解明されていませんでした。そこで、本研究ではOpgG、およびそのパラログ(*4)であるOpgDについて、機能構造解析を行いました。すると、OpgGおよびOpgDは、β-1,2-グルカンを加水分解するβ-1,2-グルカナーゼであることが明らかになりました。特筆すべきことに、これらは既知のGHファミリー(*5)とはアミノ酸配列、構造が全く異なるため、新しいタイプの酵素群として新規のGHファミリー(GH186)が創設されました。さらに、OpgDはGHファミリーには先例のない反応メカニズムをもつことがわかりました。

本研究で示されたOPG生合成経路に関する新たな知見は、学術的に意義深いだけでなく、今回同定された新規のGHファミリーは、将来的には、グラム陰性病原菌の病原性を阻害するための構造ベース創薬のターゲットとなる可能性も考えられます。

本研究成果は、2023年9月21日に国際学術誌「Communications Biology」にオンライン掲載されました。

【用語解説】

(*1)グラム陰性菌
グラム染色液に染まらない細菌の一群で、内膜と外膜の2枚の細胞膜に包まれ、薄いペプチドグリカン層をもつことを特徴とする。

(*2)ペリプラズム領域
グラム陰性菌がもつ、内膜と外膜に挟まれた領域。

(*3)β-1,2-グルカン
グルコースがβ-1,2-結合というめずらしい様式で結合した多糖。環状構造をもつβ-1,2-グルカンは、疎水性の化合物と複合体を形成することで、水に溶けやすくさせる性質などをもつことから、薬学や食品科学分野への応用が期待されるが、機能性に関する研究はまだ十分に進んでいない。

(*4)パラログ
遺伝子重複により生じた類似遺伝子。大腸菌由来のOpgGとOpgDでは、32.9%のアミノ酸配列が一致する。

(*5)GHファミリー
糖質加水分解酵素(Glycoside Hydrolase)ファミリーの略。糖鎖を加水分解する酵素群のなかで、アミノ酸配列の類似性が高い一群。

研究内容の詳細

細菌の病原性などに関わる糖鎖「OPG」の新規の生合成酵素を発見~新たな創薬ターゲットとなる可能性~(PDF:0.7MB)

論文情報

【掲載誌】Communications Biology
【論文タイトル】Identification of enzymatic functions of osmo-regulated periplasmic glucan biosynthesis proteins from Escherichia coli reveals a novel glycoside hydrolase family
【著者】Sei Motouchi, Kaito Kobayashi, Hiroyuki Nakai and Masahiro Nakajima
【doi】10.1038/s42003-023-05336-6

本件に関するお問い合わせ先

広報事務室
E-mail pr-office@adm.niigata-u.ac.jp

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