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誘電体メタ表面のナノ領域で発生する光が結晶のキラリティ制御に有効であることを実証

2024年02月07日 水曜日 研究成果

発表のポイント

  • 誘電体メタ表面(注1)への円偏光(注2照射により励振されるナノ領域に局在した光がキラル結晶(注3の利き手に偏りを誘起することを明らかにしました。
  • 円偏光よりも高効率な光による物質キラリティ制御が期待されます。
  • 光のキラリティとキラル物質との相互作用の理解に貢献する成果です。

概要

キラリティという、右手と左手の関係のように鏡合わせの構造同士が異なる性質は、自然界に普遍的に存在し、生命の起源、創薬やスピントロニクス(注4とも関わる重要な性質です。キラル物質は人工的に合成すると右手型と左手型が等量得られる(利き手は偏らない)という性質があります。これまでに円偏光というキラルな光を照射することでキラル物質の利き手の偏りを誘起する試みが行われてきましたが、この方法で誘起される偏りは僅かでした。
今回、東北大学多元物質科学研究所の新家寛正助教と中川勝教授、本学大学院自然科学研究科の後藤和泰准教授、名古屋大学未来材料・システム研究所の田川美穂教授、大阪大学大学院工学研究科の吉川洋史教授、埼玉大学大学院理工学研究科の川村隆三助教を中心とする研究グループは、円偏光よりも強くキラル物質と左右非対称に相互作用する光の励振が期待される誘電体メタ表面上で結晶構造にキラリティを持つ無機化合物を結晶化することで、円偏光のみでは得られない統計的に有意な利き手の偏りが観測されることを発見しました。本成果は、ナノ領域に局在した光を活用した物質キラリティ制御に新たな視座を与えるだけでなく、光のキラリティとキラル物質の相互作用の理解に貢献します。
本成果は、科学誌「The Journal of Physical Chemistry Letters 」に 2月5日付でオンライン掲載されました。

【用語解説】

(注1)誘電体メタ表面
メタ表面とは、微細加工技術などによって人工的に作製された疑二次元ナノ構造配列体により、自然界の物質では見られない光学特性が付与された表面である。特にナノ構造体の材料に誘電体を用いたメタ表面を誘電体メタ表面と呼ぶ。これまでに、金属ナノ構造体への光照射により励振する表面プラズモン共鳴の光学特性を利用したメタ表面が広く知られるようになった一方で、近年、誘電体ナノ構造の多様な光共鳴現象を活用することでメタ表面の光学特性の多様性を拡張する研究が注目されている。

(注2)円偏光
光は電磁場であり、電場と磁場が互いに誘起しあいながら存在する。電場には方向があるため、電場のベクトルを定義することができる。電場ベクトルが直線上で振動している光は、直線偏光と呼ばれる。一方で、電場ベクトルが回転して振動している光を円偏光と呼ぶ。回転の方向に左回りと右回りが存在するため、円偏光はキラリティを持つ。

(注3)キラル結晶
キラリティを持つ結晶を指す。キラリティとは、鏡合わせの関係にある2つの構造が異なる性質のことを指す。キラリティがあることをキラルといい、キラルな構造の代表例は人間の手の形がある。右手の形を鏡に映すと左手の形になり、これら鏡像体の形は異なるため、手の形にはキラリティがあると言える。キラルな物質には、同じ物質でも右手型と左手型に対応する異なる構造が存在する。キラルな物質の左右を表現するため“利き手”という言葉がしばしば用いられる。一方で、例えば、球を鏡に映した形は球であり、球の鏡像体同士は同じ形を示すため、球にはキラリティが無いことになる。キラリティが無いことをアキラルという。人間の手の形の他に、キラリティがある構造の例として、右巻きと左巻きが存在するらせん構造が挙げられる。

(注4)スピントロニクス
固体中の電子が持つ電荷だけでなくスピンの自由度も併せて工学的に応用する分野のことを指す。固体中の電子はマイナスの電荷を持つ。電荷のマイナスとプラスの自由度を情報として活用するのがエレクトロニクスである。一方で、電子には電荷だけではなく、スピンと呼ばれる性質を持つ。スピンは、電子の自転に例えられる性質で、回転の方向には左回りと右回りに対応する自由度がある。この自由度を、電荷のプラスとマイナスのように情報として活用することができる。スピンとエレクトロニクスを組み合わせた造語がスピントロニクスである。

研究内容の詳細

誘電体メタ表面のナノ領域で発生する光が結晶のキラリティ制御に有効であることを実証(PDF:0.8MB)

論文情報

【掲載誌】The Journal of Physical Chemistry Letters
【論文タイトル】Mie-Resonant Nanophotonic-Enhancement of Asymmetry in Sodium Chlorate Chiral Crystallization
【著者】Hiromasa Niinomi*, Kazuhiro Gotoh, Naoki Takano, Miho Tagawa, Iori Morita, Akiko Onuma, Hiroshi Y. Yoshikawa, Ryuzo Kawamura, Tomoya Oshikiri, and Masaru Nakagawa
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 助教 新家寛正
【doi】10.1021/acs.jpclett.3c03303

本件に関するお問い合わせ先

広報事務室
E-mail pr-office@adm.niigata-u.ac.jp

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