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指定難病「視神経脊髄炎」の炎症を正負に制御する免疫ダイナミクスを発見-好中球とT細胞制御を目指した新たな治療法に道-

2024年04月26日 金曜日 研究成果

本学脳研究所脳神経内科の中島章博助教、佐治越爾助教(現・新潟市民病院脳神経内科副部長)、本学大学院医歯学総合研究科の河内泉准教授、独立行政法人国立病院機構新潟病院脳神経内科の柳村文寛医師らの研究グループは、本学脳研究所(脳神経内科分野、病理学分野)並びに本学大学院医歯学総合研究科を中核拠点とし、京都府立医科大学、信州大学、関西医科大学、新潟医療福祉大学、国立病院機構まつもと医療センターなどと共同して、「指定難病『視神経脊髄炎(注1)』で、ステージ依存性に炎症を正負に制御する免疫ダイナミクス」を明らかにしました。本研究成果は、2024年4月24日、神経病理学分野のトップジャーナル「Acta Neuropathologica」(IF 12.7)(5-year IF 16.2)のオンライン版に掲載されました。

本研究成果のポイント

  • 視神経、脊髄に炎症を繰り返す指定難病「視神経脊髄炎」において、ステージ依存性に炎症を正負に制御する「新しい免疫ダイナミクス」を世界で初めて明らかにした。
  • 視神経脊髄炎では、炎症を起こしている神経に、(i)活性化した好中球(注2)、(ii)インターロイキン(IL)-17を分泌するT細胞(TH17細胞やTC17細胞)(注3・注4)、(iii)組織を傷害する顆粒(グランザイム)を持つ組織常在性記憶T細胞(注5)が増加し、病変が拡大する。
  • 視神経脊髄炎では、神経に組織常在性記憶T細胞が常在し、組織を傷害する顆粒(グランザイム)を持つことで、炎症・自己免疫現象を引き起こす可能性がある。
  • 視神経脊髄炎の免疫ダイナミクスは、多発性硬化症(注6)とは異なる。
  • 視神経脊髄炎で、発作を予測する血液バイオマーカーを開発できる可能性がある。
  • 視神経脊髄炎で、好中球、TH17細胞やTC17細胞、組織常在性記憶T細胞を標的とした新たな治療戦略に繋がる可能性がある。
【用語解説】

(注1)視神経脊髄炎
水チャネル分子アクアポリン4を標的とする自己抗体によってアストロサイトが障害され、主に視神経と脊髄に炎症が生じ、視力の障害、手足の麻痺、しびれなどが起こる自己免疫疾患である。近年、視神経と脊髄だけでなく大脳にも炎症が生じることがわかり、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)とも呼ばれる。1回の再発で重度の後遺症を残すことが多い。

(注2)好中球
好中球は白血球のなかの顆粒球の一種で、細菌・真菌の感染部位で活性化し、細胞内の顆粒を放出することで感染を制御する。活性化した好中球のDNA・ヒストンと様々な殺菌蛋白が網状に放出される現象を、好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular trap: NETs)と呼ぶ。

(注3)TH(ヘルパーT細胞)
細胞表面にCD4分子を有するT細胞である。マクロファージ、樹状細胞、B細胞によって提示された抗原の断片を認識することで活性化し、サイトカインを分泌して他の免疫細胞の働きを調節する。ヘルパーT細胞のなかで、インターロイキン-17を分泌して好中球を誘導するものをTH17細胞と呼ぶ。

(注4)TC(細胞傷害性T細胞)
細胞表面にCD8分子を有するT細胞である。ヘルパーT細胞の指示を受け、ウイルス感染細胞やがん細胞などの異常な細胞を認識し、細胞傷害性顆粒のグランザイムなどを分泌する。細胞傷害性T細胞のなかで、インターロイキン-17を分泌して好中球を誘導するものをTC17細胞と呼ぶ。

(注5)TRM(組織常在性記憶T細胞)
細胞表面にCD103分子を有するT細胞である。皮膚、肺、腸管などの組織に常在し、病原体を認識し、サイトカインや細胞傷害性顆粒を分泌することで、速やかに感染を制御する。近年、乾癬や白斑といった皮膚の自己免疫疾患だけでなく、多発性硬化症の炎症早期にもTRM細胞が関与し、疾患ごとにTRM細胞の特徴が異なることが明らかにされつつある。

(注6)多発性硬化症
オリゴデンドロサイトを標的とした免疫応答によって、脳、視神経、脊髄に炎症が生じ、視力の障害、手足のまひ、しびれなどが起こる自己免疫疾患である。自己抗原や自己抗体は同定されていない。適切な治療をしなければ、再発と寛解を繰り返し、再発とは無関係に神経障害が進行する。

研究内容の詳細

指定難病「視神経脊髄炎」の炎症を正負に制御する免疫ダイナミクスを発見-好中球とT細胞制御を目指した新たな治療法に道-(PDF:1.0MB)

論文情報

【掲載誌】Acta Neuropathologica
【論文タイトル】Stage-dependent immunity orchestrates AQP4 antibody-guided NMOSD pathology: A role for netting neutrophils with resident memory T cells in situ
【著者】Akihiro Nakajima#, Fumihiro Yanagimura#, Etsuji Saji, Hiroshi Shimizu, Yasuko Toyoshima, Kaori Yanagawa, Musashi Arakawa, Mariko Hokari, Akiko Yokoseki, Takahiro Wakasugi, Kouichirou Okamoto, Hirohide Takebayashi, Chihiro Fujii, Kyoko Itoh, Yo-ichi Takei, Shinji Ohara, Mitsunori Yamada, Hitoshi Takahashi, Masatoyo Nishizawa, Hironaka Igarashi, Akiyoshi Kakita, Osamu Onodera, Izumi Kawachi* (#, equal contribution; *, correspondence)
【doi】10.1007/s00401-024-02725-x

本件に関するお問い合わせ先

医歯学系総務課
E-mail shomu@med.niigata-u.ac.jp

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