アルツハイマー病における病原性タウ凝集体の形成と神経細胞生存を促進する因子の同定
アルツハイマー病(AD)は、神経細胞死、脳萎縮、記憶障害を伴う進行性疾患であり、その病態形成には、タウ蛋白質の異常凝集によって形成されるタウ凝集体が重要な役割を果たしています。本学大学院医歯学総合研究科ウイルス学分野の髙橋雅彦准教授、藤井雅寛名誉教授らの研究グループは、タウ凝集体に含まれる蛋白質USP10(ubiquitin-specific protease 10)に着目しました。タウ蛋白質を発現するADモデルマウスにおいて、USP10の発現を減少させると、タウ蛋白質の凝集が抑制され、ADの進行が緩和されることが確認されました。一方、病状が進行した後期AD患者では、タウ凝集に伴ってUSP10の発現量が低下し、神経細胞死を促進することが示唆されました。USP10を神経系で欠損したマウスにおいても神経細胞死の増加が観察されました。これらの知見は、USP10がADの病期に応じて異なる作用を示すことを示唆しています。すなわち、初期ADではUSP10発現の維持がタウ凝集を促進しますが、後期ADではUSP10発現の減少が神経細胞死を加速させます。
本研究成果は、2025年12月8日、科学誌「Molecular and Cellular Biology」誌に掲載されました。
本研究成果のポイント
- ADモデルマウスの初期では、USP10はタウ蛋白質量を増加させ、タウ凝集を促進する。
- 後期AD患者では、USP10発現の減少が神経細胞死の増加と相関する。
- 脳特異的USP10欠損マウスでは、神経細胞死が増加する。
- USP10はタウ凝集と神経細胞の生存を促進する。
- USP10がADに対する新たな治療標的として有望であることが示唆された。
研究内容の詳細
アルツハイマー病における病原性タウ凝集体の形成と神経細胞生存を促進する因子の同定(PDF:1MB)
論文情報
【掲載誌】Molecular and Cellular Biology
【論文タイトル】Dual Regulatory Roles of USP10 in Tau Pathology and Neuronal Fate During Alzheimer’s Disease Progression
【著者】Masahiko Takahashi, Hiroki Kitaura, Asa Nakahara, Akiyoshi Kakita, Keisuke Watanabe, Taichi Kakihana, Toshifumi Hara, Yoshinori Katsuragi, Manami Yoshita-Takahashi, Sergei Anisimov, Takayuki Abe, Masahiro Fujii
【doi】10.1080/10985549.2025.2575950
本件に関するお問い合わせ先
医歯学系総務課
E-mail shomu@med.niigata-u.ac.jp