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系統的に新規なβ-1,2-グルカナーゼ群の発見~酵素の構造解析・機能解析から解明された分子進化の手がかり~

2025年06月11日 水曜日 研究成果

研究の要旨とポイント

  • β-1,2-グルカンの分解酵素について、アミノ酸配列の網羅的な相同性検索を行い、機能未知で系統的に新規な4つのグループ(Group 1~4)を発見しました。これらのうち3つのグループ(Group 1~3)でβ-1,2-グルカンを分解する活性を発見しました。
  • これらグループの酵素の立体構造と予測構造の解析、反応機構の解析、推定される触媒残基の位置の比較から、これら3つのグループが系統的に新規な糖質加水分解酵素(GH)のファミリー(*1)であることが示され、新規GHファミリーGH192、GH193、GH194が創設されました。
  • 本研究のさらなる発展により、新規酵素の探索や酵素反応メカニズムの解明が進展し、新たなオリゴ糖合成のための酵素機能改変などへの応用が期待されます。

研究の概要

東京理科大学 創域理工学部 生命生物科学科の中島 将博准教授、同大学大学院 創域理工学研究科 生命生物科学専攻の元内 省博士(日本学術振興会特別研究員PD)、産業技術総合研究所 人工知能研究センターの小林 海渡研究員、本学 農学部 農学科の中井 博之准教授の共同研究グループは、糖質加水分解酵素(Glycoside Hydrolase; GH)に関して、β-1,2-グルカンを分解してβ-1,2-グルコオリゴ糖を生成するGHファミリー(GH144、GH162)に属する酵素(β-1,2-グルカナーゼ, SGL)(図1)を基にしたアミノ酸配列の網羅的な相同性検索により、機能未知で系統的に新規な4つのグループ(Group1~4)を発見しました(図2)。機能と構造の側面から解析を行った結果、Group 1~3のタンパク質がSGLであることがわかりました。また、構造的な特徴や反応機構の比較から、Group 1~3は既知のGHファミリーであるGH144、GH162、GH189とは異なる新規ファミリーに分類されるべきであることが示され、このGroup 1~3に対してそれぞれGH192、GH193、GH194が新たに創設されました。
β-1,2-グルカンは細菌によって生産される天然のグルコースポリマーであり、共生因子、浸透圧調節、宿主免疫系の回避など、生理学的に重要な役割を果たしています。しかし、その希少さのため、β-1,2-グルカンの合成と分解に関与する酵素の研究例は限られており、関連酵素の自然界における分布の全体像の把握には至っておりません。本研究グループは、過去にさまざまなβ-1,2-グルカン関連酵素に関する研究を行い、酵素がはたらく分子メカニズムを解明してきました。今回、さらに理解を深めるべく、土壌細菌Chitinophaga pinensis由来のSGL(CpSGL)と、糸状菌Talaromyces funiculosus由来のSGL(TfSGL)を用いた相同性検索を行い、既知のGHファミリー周辺の探索を行いました。
その結果、系統的に全く新しい4つのグループ(Group 1~4)を発見しました。これらのタンパク質について詳細に解析したところ、Group 1~3のタンパク質はβ-1,2-グルカンを特異的に分解する作用を示しました。Group 4のタンパク質については分解対象となる基質を同定することができませんでした。Group 1~3の酵素について、反応速度論的解析や酵素特性解析を行ったところ、既知のGH144やGH162に属するSGLと類似した性質を示したことから、今回発見した酵素もSGLであると結論付けられました。さらに、これら3つのGHファミリーはいずれも既知のSGLと同様の全体構造[(α/α)6バレル構造]を有し、アノマー反転型(*2)の反応機構を示すことから、構造分類群としてはGH144やGH162と同じくclan GH-Sに属することを見出しました。しかし、推定される触媒残基位置の違いや系統樹における位置関係から、Group 1~3は既知のGHファミリーとは異なる新規ファミリーであることが示され、それぞれのグループ対してGH192、GH193、GH194という新しいGHファミリーが創設されました。

図1
図1. β-1,2-グルカンの構造とβ-1,2-グルカナーゼ

図2
図2. β-1,2-グルカナーゼの系統解析
赤丸は本研究で使用したタンパク質を示している。それらの由来の菌はGroup 1、グラム陰性菌Photobacterium gaetbulicola、グラム陰性菌Endozoicomonas elysicola;Group 2、グラム陽性菌Sanguibacter keddieii;Group 3、P. gaetbulicola;Group 4、P. gaetbulicola;GH144、植物病原菌Xanthomonas campestris pv. campestris。

本研究成果は、2025年5月24日に国際学術誌「Protein Science」にオンライン掲載されました。

【用語解説】

*1: GHファミリー
GHファミリーは、糖鎖を加水分解する酵素群であり、主にアミノ酸配列の相同性に基づいて分類される。進化的に近縁な酵素同士を同じファミリーにまとめるという考えに従っており、CAZyデータベースにおいて体系的に整理されている。ファミリーごとに基質の認識や反応機構などの特性を共有していることが多い。

*2: アノマー保持型、アノマー反転型
アノマーとは、糖が環状構造(ピラノースやフラノース)をとる際に、環の形成によって生じる新たな不斉炭素(アノマー炭素)におけるヒドロキシ基の立体配置の違いに基づく異性体を指す。グリコシド結合を加水分解する酵素反応において、基質のアノマー型と生成物のアノマー型が一致するものをアノマー保持型、異なる型に変化するものをアノマー反転型という。

研究内容の詳細

系統的に新規なβ-1,2-グルカナーゼ群の発見~酵素の構造解析・機能解析から解明された分子進化の手がかり~(PDF:1MB)

論文情報

【掲載誌】Protein Science
【論文タイトル】New glycoside hydrolase families of β-1,2-glucanases
【著者】Masahiro Nakajima, Nobukiyo Tanaka, Sei Motouchi, Kaito Kobayashi, Hisaka Shimizu, Koichi Abe, Naoya Hosoyamada, Naoya Abara, Naoko Morimoto, Narumi Hiramoto, Ryosuke Nakata, Akira Takashima, Marie Hosoki, Soichiro Suzuki, Kako Shikano, Takahiro Fujimaru, Shiho Imagawa, Yukiya Kawadai, Ziyu Wang, Yoshinao Kitano, Takanori Nihira, Hiroyuki Nakai, Hayao Taguchi
【doi】10.1002/PRO.70147

本件に関するお問い合わせ先

広報事務室
E-mail pr-office@adm.niigata-u.ac.jp

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