捕食性原生生物が土壌微生物群集を制御する普遍的な仕組みを初めて実証 ―原生生物の「捕食」を活かした環境調和型・次世代農業へ―
本研究成果のポイント
- 捕食性原生生物(捕食者)が、土壌微生物群集の組成を左右する普遍的な要因であることを世界で初めて実証。
- 捕食者は優占細菌を選択的に捕食し、多様な細菌が共存しやすい群集を形成。さらに、種ごとに異なる方向へ群集を誘導することを解明。
- この仕組みを活用することで、施肥・農薬を抑えつつ、養分循環の効率化や病原菌の抑制などを実現する新たな土壌管理技術が期待される。
国際農研、本学、名古屋大学の共同研究グループは、微生物を食べるアメーバなどの単細胞生物(捕食性原生生物、以下「捕食者」)による捕食が、土壌中の微生物群集の組成を左右する普遍的な要因の一つであることを世界で初めて実証しました。
土壌微生物群集は、炭素循環や養分循環など地球環境を支える重要な役割を担っており、その形成プロセスの解明は、土壌の健全性や環境リスクを評価する観点から近年ますます重要になっています。これまでの研究では、温度、水分、土壌pH、土壌養分量などの環境因子や植物との相互作用といった「ボトムアップ制御1)」によって土壌微生物群集が変動することが知られていました。しかし、捕食者が土壌微生物の群集形成に果たす役割については、主に分離培養などの人工的な条件下でしか検討されておらず、自然環境での実態は不明でした。
本研究では、スケールの異なる3つの手法 ― 地球規模でのメタ解析2)、圃場試験、実験室でのマイクロコズム実験3) ― を組み合わせ、捕食者が土壌微生物群集に与える影響を包括的に評価しました。その結果、捕食者がその環境で優占する細菌を選択的に捕食することで、これまで目立たなかった細菌の割合が相対的に増加し、土壌微生物群集の組成が似通っていく「収束」がスケールを超えて普遍的に生じることを明らかにしました。さらに、収束する先は捕食者の種によって異なり、土壌微生物群集が異なる方向へ分化(「発散」)することも示されました。これらの結果から、捕食者が土壌微生物群集の組成を「収束」と「発散」という相反する二つの方向からコントロールするプロセスが、自然環境下で機能していることを初めて実証しました。
本研究の成果は、捕食者の生態的機能である「トップダウン制御4)」を活用することで、土壌微生物群集を望ましい方向へ誘導するという新たなマイクロバイオーム工学5)の可能性を切り拓くものです。今後、この知見を応用することで、施肥量や農薬使用量を抑えながら養分循環の効率化や病原菌の抑制を図る新たな土壌管理技術の開発につながると期待されます。これは、環境負荷の低減と農業生産性の向上を両立させる次世代農業の実現に向けて、大きな一歩となるものです。
本研究成果は、国際科学専門誌「Nature Communications」オンライン版(日本時間2026年3月18日)にオープンアクセスで掲載されました。
【用語解説】
1)ボトムアップ制御
微生物の生産性に関係する栄養分や生育環境によって微生物の群集組成が制御される仕組みです。
2)メタ解析
すでに報告されている多数の研究結果を集めて統合的に解析する方法です。個々の研究だけでは見えにくい全体的な傾向の把握や結果の一般化に有用です。
3)マイクロコズム実験
自然の生態系を擬似的に再現し、条件を制御した上で、特定の生物間相互作用や生物―環境相互作用を評価する実験系です。本研究では、メタ解析および圃場試験で得られた結果の一般性を検証するために用いました。
4)トップダウン制御
捕食者による捕食やウイルスによる溶菌によって微生物の群集組成が制御される仕組みです。
5)マイクロバイオーム工学
微生物群集を意図的に設計・操作して、望ましい機能を引き出すことを目指す応用志向の学問分野です。
担当研究者の声
農学部
Asiloglu M. Rasit 助教
原生生物は土壌生態系において重要な役割を担っていますが、特に日本では細菌や真菌と比べて研究がまだ十分に進んでいない微生物群の一つです。本研究により、これらの微小な捕食者が土壌微生物の多様性や土壌肥沃度に強く影響していることが示されました。本研究をきっかけに原生生物への関心が高まり、マイクロバイオーム工学への応用を通じて、より持続可能でレジリエントな農業システムの構築につながる研究が進むことを期待しています。
研究内容の詳細
捕食性原生生物が土壌微生物群集を制御する普遍的な仕組みを初めて実証 ―原生生物の「捕食」を活かした環境調和型・次世代農業へ―(PDF:1.5MB)
論文情報
【掲載誌】Nature Communications
【論文タイトル】Predator-mediated local convergence fosters global microbial community divergence
【著者】Rasit ASILOGLU, Hayato KUNO(久野颯斗), Mayu FUJINO(藤野まゆ), Seda BODUR, Murat AYCAN, Haruka ISHIZUKA(石塚晴佳), Shiori KAZAMA(風間栞), Shinya IWASAKI(岩崎真也), Jun MURASE(村瀬潤), Naoki HARADA(原田直樹), Miwa ARAI(荒井見和), Kenta IKAZAKI(伊ヶ崎健大)
【doi】10.1038/s41467-026-70605-x
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