令和7年度卒業式 学長告辞
卒業生、修了生の皆さん。
本日、卒業・修了の日を迎えられた皆さんに、新潟大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。また、これまで皆さんの学びと成長を支えてこられたご家族、ご関係の皆様にも、深く感謝と敬意を表します。
今年度の学部卒業生は2193名、大学院修了生は702名、学位論文提出者は3名、養護教諭特別別科修了生は48名です。本日ここ朱鷺メッセにおいて、皆さんが一堂に会し、全学合同の卒業式を挙行できますことを、誠に喜ばしく存じます。
皆さん一人ひとりの表情から、達成感、安堵、期待、そして少しの不安が入り混じった思いが伝わってきます。それは、この大学で過ごした時間が、決して軽いものではなかった証でもあります。
今日という日は、一つの区切りであると同時に、新しい人生の扉が静かに開く瞬間です。
鎌倉時代の禅僧、大燈国師は、次のような言葉を遺しています。
「関 南北東西活路通ず」
人生にはいくつもの関門があります。しかし、ひとたびそれを越えれば、南北東西、それぞれに進むべき活路が、おのずと見えてきます。皆さんはいま、その一つの関門を越え、新たな歩みの門出に立っています。
この大切な節目に、学長として、そして皆さんより先に社会を歩んできた一人の人間として、言葉を贈りたいと思います。
いま世界は、大きな変化の時代にあります。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行、国際秩序の動揺、そして技術の急速な進化。
かつて当たり前だと思われていたものが、次々と揺らいでいます。
核軍縮をめぐる国際的な枠組みも揺らぎ、対話によって支えられてきた国際秩序が決して自明ではないことが示されました。秩序は、誰かが保証してくれるものではありません。一人ひとりの責任ある選択によって支えられるものです。
一方で、生成AIをめぐる技術革新は加速度を増しています。AIは、社会の多くの仕組みを変えつつあります。
しかし、方向を決めるのは技術ではありません。判断し、責任を引き受けるのは、常に人間です。いま私たちは、知識とは何か、創造とは何か、そして人間とは何かという根源的な問いに、改めて向き合っています。こうした時代において重要になるのは、問いを立てる力です。AIは多くの答えを示してくれます。しかし、本当に価値のある答えは、良い問いからしか生まれません。意味のある問いは、社会をよく見つめ、人間や社会に深い関心と敬意を持つところから生まれます。そのためには、専門分野の知識だけではなく、文学や歴史、哲学といった人文学、そして異なる分野の人々との対話が欠かせません。
新潟大学の理念は「自律と創生」です。
自らを律し、深く思索し、時代の要請に応えて新しい価値を創り出す。この理念は、幾多の変化を経てもなお、本学の根幹をなす揺るぎない礎です。
また、人材育成の理念として「真の強さを学ぶ」を掲げています。
困難な状況にあっても思考を止めず、対話を重ね、より良い選択を模索し続ける力。それこそが、これからの社会で最も必要とされる力です。
さらに、社会の中で果たすべき使命として、「知を結び、未来を拓く」という志を掲げたいと思います。
大学は、知を蓄えるだけの場所ではありません。異なる分野の知を結び、人と人、地域と世界を結び、その成果を社会へと還元していく場所でもあります。研究によって生まれる知を社会とつなぎ、新しい価値を生み出していくこと。それが、本学が社会の中で果たすべき使命であると考えています。
人口減少、価値観の多様化、社会の持続可能性への問い。変化は、例外ではなく常態となりました。求められているのは、目先の対応ではありません。短期的な成果ではなく、長期的な視野に立った、人と社会への投資です。
教育も、研究も、地域への取り組みも、すぐに結果が見えるものではありません。しかし、時間をかけて人を育て、知を深め、それを社会の中で生きた力へと変えていくこと。それこそが、未来を支える道です。
大学は、完成された答えを受け取る場所ではありません。問いを立て、考え続ける力を育てる場所です。皆さんは、その時間を真正面から引き受け、学び抜いてきました。大学生活を振り返ったとき、思い浮かぶのは、講義や実験、研究室での議論、友人との何気ない会話かもしれません。その一つひとつが、皆さんの中に確かな何かを残しています。
それは、単なる知識や技術ではありません。異なる価値観に出会い、自分の考えが揺さぶられ、それでも対話を重ね、自分の言葉で考え直してきた経験です。その積み重ねは、すぐに成果として見えるものではないかもしれません。しかし、人生の節目や困難に直面したとき、皆さんを静かに、そして確実に支える、目に見えない力となるはずです。
本学は、人文科学、社会科学、自然科学、そして医歯学を含む多様な分野で知を重ねてきました。
それぞれの専門は異なっても、目指すところは一つです。人と社会の未来を、少しでも良い方向へ進めることです。
しかし、未来を切り拓くのは、大学という組織そのものではありません。今日ここを巣立つ、皆さん一人ひとりです。社会は完成されたものではありません。誰かが与えてくれるものでもありません。社会とは、皆さんが参加し、支え、創り続けていくものです。
どうか自らの専門に誇りを持ち、それぞれの場所で知を生かしてください。
地域に根差し、世界に開かれたこの大学で培った知と経験を胸に、人と社会の未来に、静かな、しかし確かな光を灯してください。
不安定な世界にあってこそ、自律が求められます。
急速に進む技術の時代にあってこそ、創生が求められます。
皆さん一人ひとりが、その担い手として、それぞれの場所で未来を切り拓いていくことを、心から願っています。
新潟大学は、これからも皆さんの母校であり続けます。迷ったとき、立ち止まったとき、いつでもこの場所を思い出してください。ここは、皆さんが学び、考え、成長してきた場所です。そしてこれからも、皆さんの挑戦を見守り続ける場所です。
結びに、皆さん一人ひとりの人生が、挑戦と学び、そして出会いに満ちたものであることを心より祈念いたします。
皆さんの前途に、心からの祝福を贈ります。
本日は、誠におめでとうございます。
令和8年3月23日
新潟大学長 染矢俊幸
