遺伝性乳癌卵巣癌患者への予防的卵巣摘出術-推奨年齢を日本で初めて提唱-
本学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の榎本隆之教授、関根正幸准教授らの研究グループは、遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC注1)の全国登録データを用いて、BRCA1/2遺伝子注2に病的バリアント注3を有する日本人女性の卵巣癌発症年齢を詳細に解析しました。BRCA2病的バリアント陽性者では、BRCA1病的バリアント陽性者及びBRCA1/2病的バリアント陰性者に比べて有意に発症年齢が遅く、40歳未満の卵巣癌発症者を認めていないことを報告しました。閉経前の早い時期に両側卵巣を摘出してしまうと、妊娠ができなくなるだけでなく、女性ホルモンの欠落により心血管障害のリスク上昇が問題となります。この知見は、遺伝カウンセリングの現場にて、リスク低減卵管卵巣摘出術(risk-reducing salpingo-oophorectomy: RRSO)注4の至適タイミングを検討する上で、日本初の重要なデータとなります。
本研究成果のポイント
- BRCA遺伝子検査を受けた方では、BRCA1/2病的バリアント陰性者に比べて、BRCA1病的バリアント陽性者は有意に卵巣癌の発症年齢が若く、BRCA2病的バリアント陽性者では有意に卵巣癌の発症年齢が遅かった。
- BRCA2病的バリアント陽性者では、40歳未満の卵巣癌発症を認めていなかった。
- 日本で初めて、予防的卵巣摘出術を行うタイミングを議論するための科学的データである。
【用語解説】
(注1)遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)
BRCA1もしくはBRCA2遺伝子に生まれつきの異常(病的バリアント)があることで乳癌、卵巣癌、膵癌、前立腺癌などの発症リスクが高くなる遺伝性腫瘍です。80歳までの乳癌発症リスクが約7割、卵巣癌がBRCA1で約4割、BRCA2で約2割と報告されています。
(注2)BRCA1/2遺伝子
細胞が生存するために重要な働きをしている遺伝子で、主な働きはDNAの傷を修復して細胞が癌化することを抑える働きです。癌抑制遺伝子の一つです。
(注3)病的バリアント
ヒトのDNAには約30億の塩基配列があり、個人個人で違いがあります。これを「遺伝子バリアント」といいますが、この配列の違いが病気の発症原因になるものを「病的バリアント」といいます。
(注4)リスク低減卵管卵巣摘出術(risk-reducing salpingo-oophorectomy: RRSO)
BRCA遺伝子に病的バリアントを保持している女性では、卵巣癌のリスク低減効果が約80%、乳癌のリスク低減効果が約50%と報告されています。
研究内容の詳細
遺伝性乳癌卵巣癌患者への予防的卵巣摘出術-推奨年齢を日本で初めて提唱-(PDF:0.7MB)
論文情報
【掲載誌】Journal of Gynecologic Oncology
【論文タイトル】Differences in age at diagnosis of ovarian cancer for each BRCA mutation type in Japan: optimal timing to carry out risk-reducing salpingo-oophorectomy
【著者】Masayuki Sekine,Takayuki Enomoto, Masami Arai, Hiroki Den, Hiroyuki Nomura, Takeshi Ikeuchi, Seigo Nakamura and the Registration Committee of the Japanese Organization of Hereditary Breast and Ovarian Cancer
【doi】10.3802/jgo.2022.33.e46
本件に関するお問い合わせ先
広報室
E-mail pr-office@adm.niigata-u.ac.jp
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